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HAPPY END(11)◆ANI2to4ndE ◇ ――そして、舞台は再び儀式の籠の中へと舞い戻る。 ◇ 「信じられない……あたし、夢でも見てんのか」 究極にして至高なるデスマッチの終了を、遠く離れた末席から眺める5つの視線。 その中でも一番間近に立っていたねねねは、ドーム状に広がる光の洪水に目をしかめていた。 愛の名の下にぶつかり合った惚気自慢。そして下馬評では予測不能だった師弟対決。 異世界を股にかけ、プライドを懸けた2番勝負は、ギャラリーに勝敗を越えた感動を与えていた。 「最高のロイヤルストレートフラッシュだった」 不安そうにリングを観察するねねねに答えながら、スパイクはポケットを探る。 右手がお目当ての物を掴んだことを認識すると、さっと口に運び火を灯した。 上等な葉巻をジンから譲り受けたので、もう肩透かしを食らうことはない。 「……あいつら、生きてるよな」 「それがわかりゃ苦労はしねえさ」 肺に吸い込んでいた煙を吐き出し、スパイクは踵を返してしゃがむ。 新たな焦点は、後方でうずくまる舞衣に寄り添っているゆたか。 勇気を胆に据えていたゆたかの理性は、化け物の公開自決というショックで疲弊していた。 「大丈夫か」 「……はい、スパイクさん。私は……」 「ゆたか。大丈夫。とりあえず呼吸を落ち着かせて」 とはいえゆたかの心は、意識の完全遮断を拒むほど強くなった。 守ってもらう立場なのは変わらない。体はまだしっかりと心に追い付いていない。 それでも確実に成長している彼女に、スパイクは素直に感心していた。 「これから忙しくなるからな。しっかり休んどけ」 「ス……スパイクさん……」 「俺たちは賭けに勝った。残ってるのは俺たちとあのギルガメッシュだけだ。 でもまだ終わりじゃない。俺たちには俺たちの仕事がある。ここがくたばっちまう前に、皆でちゃんと脱出するんだ」 「はい。わかっています……舞衣ちゃん、私、もう少し甘えちゃうね」 「え!……あ、あ~~、うん」 だからこそ、ゆたかを助けると皆で意思表明しあった。そこには誰の異存もない。 ゆたかはスパイクの説得に迷うことなく頷き、舞衣に背中を預けることを受け入れる。 妙に顔を赤らめる舞衣の反応に若干の疑問を感じながらも、スパイクは立ち上がった。 「スパイク! 両手の花を生けてるとこ悪いけどちょっと手を貸してくれ! 」 スパイクが呼び声に振り向くと、少し離れた場所で、ジンが複数のデイバッグから道具を地面に並べていた。 デイバッグの数はここにいる人数とは合わず、余分に増えている。 ガッシュ、スカー、そしてドモンのデイバッグをジンが直前に受け取っていたからだ。 「粗方は分別しといたよ、はいこれ分類のメモ。 ガッシュたちの荷物が誰のバッグにどんな感じで入ってるかわかるから」 「こりゃまた随分と手際よく――おっと、また“ドロボウですから”って言い返すつもりだったろ」 「……念のため、俺の荷物を分配したメモも書いといたよ。要望があったら言ってくれ」 ジンのただならぬ雰囲気を踏まえて、スパイクは渡されたメモにちゃんと目を通した。 そのメモにはガッシュたちだけでなく、ジンの荷物も大半が誰かのデイバッグに移ったことを記していた。 ジンが未だに所有している荷物はどの項目からも2、3点しかなかった。 「要望がある」 「どうぞ」 「何、考えてやがる」 スパイクは舞衣たちに悟られないよう、小声で話しかける。 右手はジンの襟を掴んでいた。左手があればもう片方の襟を掴んでいただろう。 スパイクにはジンが「掴んでもいいよ」と言っているように見えた。 軽口を叩かず重い口調で返したジンの態度が、スパイクにかなりの違和感を与えていた。 「舞衣は、守るために戦える乙女だ」 「……乙女っつーよりありゃ魔女(ジャンヌダルク)だな」 「ゆたかは、勇気を出して向き合える女の子だ。ねねねおねーさんは、幸せな未来を導かせる女性だ」 「ジン、俺はお前の口三味線に付き合えるほど、面の皮は厚くねぇぞ」 スパイクの右腕にジンの左手が噛み付き、渾身の力を入れる。 「あんたは、どうなんだい」 使い捨ての蛇皮線が想像を越える感触をスパイクの右手に食い込む。 向かい合って座る少年の話し声は、スパイクよりも小さい。 しかしその言葉は、今まで彼が聞いたどの言葉よりも大きく聞こえた。 ジンは目と口も全く笑わぬ無表情なのだが、スパイクには、言い知れぬ彼の心情を感じた。 「――なーんてねっ♪」 「はぁ?!?」 「さーて、ねねねおねーさーん!厄介なクレーマーはお帰りなすったんだ。 パーティーのガンはいよいよ主催者と重役だけだぜ。後ろを向いてる場合じゃない!」 スパイクの腕を払い除け、ジンはスキップしながらねねねの元へ走る。 取り残されたスパイクは、予想外の切り上げであっけに取られたのか、葉巻を落としてしまった。 いつの間にか舞衣も移動していたらしく、ゆたかをおんぶしたまま、ねねねと会話している。 「おいジン、お前――……はぁ」 スパイクは自分の頭にひっかかる何かについて考えながら、仲間の方へ歩き出した。 ◇ 「One by one, they are smeared in blood……They were born into this era……」 忍び寄る終焉を憂うかのようにジンは謡う。 しんしんと静み逝く魂と、ひたひたと纏わり付く死。 メロディーを捧げる相手は、パーティーの参加者だけでなく係員――全ての犠牲者――も含まれていた。 「Oh~……chosen princes, Indeed, Is fighting a banquet? Ah~……」 ジンは舞衣の牽引のもと、街全体を見下ろせる高さまで、カグツチに運ばれていた。 故郷へ運ぶ馬車のように、優しく揺れながら連れていく。遥か彼方に見える天の河に、少年を連れていく。 ヨルダンの源泉は天国ではなく、かつて台風の目だった目玉商品。エリアC-6に安置されている大怪球フォーグラー。 「さあ、急いで時間(リール)を巻いてくれ。鮮度と客を逃がさぬ内に」 「こんなに高く上がっていいの? ここからフォーグラーの内部に入れない? 」 目算から予測されうる進行に、若干の焦りを滲ませつつ、ジンは頭の中で段取りする。 カグツチによるフォーグラーへの運搬作戦は良好。 急激な上昇による気圧変化の影響を考えて、ゆたかをスパイク達に任せて地上に残したが、“間に合いそう”だ。 ねねね達に迅速を超えた“ジン速”で作業をする、と大見得を切った手前、それは常に意識しなければ。 「何をしている?」 張り詰めた空気に傲岸不遜な大吼えが突き抜ける。轟々と流れる風に重ねるように、ギルガメッシュが謳う。 この世界の運命を握る強き生者。ウィングロードに立ち腕を組む姿に威風が吹き荒れている。 「I am beautiful and omniscient……あなたに贈る口語りでございます」 「おべっかを悪しき華束として我に嗅がすか――ハッ」 風で舞いあがるかのごとく、王は高く飛びあがる。押し上げるのは民衆ではなく自分。 マッハキャリバーが道中で展開するウィングロードを足掛けとしながらも、彼を動かすは常人離れの脚力のみ。 むき出しになったフォーグラーの進入口付近まで瞬く間に翔け、再び空に座した。 「ゲストが調理場に入るのは営業妨害だよ」 そして配下にウィングロードを延長させてフォーグラーに繋がせたのを確認し、退屈そうに歩く。 こつこつと地を叩く足音が空気をより冷ややかにさせていた。 「コックの分際で油を売っていたのはどこのどいつだ」 英雄王の切り返しが、相変わらずのへらず口にチャックを閉める。舞衣も気丈に言い換えそうとはしない。 ギルガメッシュの言葉がどういう意味を持つのか、2人は理解していたから。 そう言われざる得ない不足の事態、招かれざる客の登場。 死に瀕してもなお突き進む螺旋遺伝子。ヴィラルとシャマルの愛情合体グレンラガンである。 「――見よ。死に損いのハイエナが、飯の匂いを嗅ぎつけてるぞ」 あの火事場泥棒の起動にジンたちが気づいていたにも関わらず、鉄火場に向かったのはなぜか。 グレンラガンは、それ以上何もせず、ひたすら無防備宣言を死守し続けていたからである。 この沈黙の行き着く先が永遠の死か秒殺の罠か。莨を吸うために胡坐をかいたわけではあるまいし。 虎穴に入らずんばとは言うが獲物は虎子ではない。ジンは雪崩に身を任せるのが最良と考えた。 「わかってたさ……天使が後を追っかけてきてるのは」 グレンラガンが今、この瞬間動き出したとしても、カグツチには余裕があった。 そのスピードを踏まえれば、今からスパイクたちを拾いに行った後、戦闘に応じられる勝算はある。 ただ、ジンにはどうしてもフォーグラーに到達せねばならない理由がある。それは皆が知っている。 最悪のシナリオはハイエナの標的が仲間(ベーコン)ではなく、目玉(サニーサイドアップ)だったとき。 カグツチによる直接攻撃を度外視していたわけではないが、被害を恐れたジンはなるだけ穏便に済ませたかった。 「給与明細の届出は、三途の向こうに聞いてほしいなあ」 ◇ 『……もうやめてください』 何も言わずに操縦桿を先へ倒し続けるパイロットに、クロスミラージュは応答を請う。 それは、生ける2人にこれ以上の愚挙をさせないための警告でもあり、純粋な心配でもある。 ドモン・カッシュとの死闘は、生還というカテゴリを得られただけでも正当な評価に値するのだ。 『あなた方は全力全開でした』 グレンラガンは半死半生、シャマルもヴィラルもその身に負った傷の数は尋常ではない。 しかし生きている。皆が生き延びたのだ。シャマルが完全に回復すれば、2人の状態はより良い方向に齎せられる。 彼らの意思が何であろうと、クロスミラージュがついつい気遣ってしまう現状。 『それでもまだ続けるというのですか』 なぜなら彼らは、クロスミラージュの言葉をまるで認識していないからだ。 クロスミラージュは3つの言葉をひたすら彼らに聞かせているが、反応はない。 『もうやめてください』 朧気に垂れ流される呻きが、電子音に紛れて姿を隠す。 クロスミラージュは、大怪球フォーグラーの付近に先客がいることも話せなかった。 マッハキャリバーが、強大な力の持ち主に従えている。白い龍を支える少年少女も只者ではない。 戦況は極めて不味く、そのうえ和解に持っていける確率は皆無に等しい。 『あなた方は……全力全開でした』 クロスミラージュは繰り返す。 グレンラガンが己の頭部に手を翳しても、繰り返す。 グレンがラガンをゆっくりと引き抜いても、繰り返す。 ヴィラルとシャマルが離れ離れになってしまっても、繰り返す。 グレンがラガンをカタパルトアームで投げても、繰り返す。 残されたラガンが、膝をついて座り込んでも、繰り返す。 動かぬシャマルの目を覚まさせる事もなく、繰り返す。 『それでも……それでもまだ……続けるというのですか……』 この警告はクロスミラージュからの最後の善意。 魂の叫びの果てに死んでいった仲間たちをも汲んだ中立の姿勢。 残される者たちは死にゆく者へ何もできない。 例え現存者が、本当に"何か"を死者に届けていたとしても、彼らがそれを実感することはできない。 ◇ 「ジン、グレンラガンが!」 「胡坐かいてるくせに痺れを切らせちまったか!」 そっと放たれるブーケのように、ラガンが宙を舞う。 最高の花嫁であるグレンの振り被りから生み出される勢いは、音も飛び越えそうなほどだ。 しかし――それは最後の一振りだったのであろう。 投球を終えたピッチャーの体は猫背にかがんで正座をする。両腕は故障したのか、だらりと垂れ下がっている。 肩すらまともに入らぬ投球はコントロールを大きく乱していたのだ。 ラガンはフォーグラーから明後日の方向に飛ばされて、天高く昇っている。 「舞衣、思いっきり高度を上げてくれ!」 「は、はい!?これ以上昇ったらフォーグラーを越えて……」 「早く!俺の肺を潰しちまってもいいから!」 カグツチの毛並みを掴むジンの掌がぐっしょりと汗で濡れる。 この大暴投がラストイニングになると、彼には到底思えなかった。 その証拠と言えるかどうかは微妙だが、ギルガメッシュも気を緩めていない。 ラガンの行く末をじっくりと観察しながら、時折ちらりと流し目でジンを見る。その視線の意味は―― 「着いたよジン! でもどうしてこんな遠回り――って!?」 カグツチは圧倒的なスピードでフォーグラーの頭上まで翔け昇った。 しかしジンは意外にもここでゴンドラを乗り捨てる。 「ジ――……!!」 「舞衣!皆のところへ今すぐ戻ってくれ!!」 ぽっかりと空いた穴からジンはフォーグラーに飛び込む。 着地予定座標はコクピットルームの目と鼻の先。着地を受け止めるマットへの心配はない。 幸い、今日の空には栄光への架け橋(ウィニングロード)がある。 むき出しになった外壁の鉄柱にコートを引っ掛けて、ジンは大車輪の真似事を披露する。 伸身のフィニッシュは美しい弧を描き、慣性に従いながら太陽の真ん中に飛び込んだ。 「……これは面白い」 多大な焦りのせいか着地は失敗した。先に踊り場にいた観客に笑われてしまったが、ジンにはどこ吹く風。 戦友から譲り受けたクールな劇薬ブラッディアイを、雀の涙ほど、両目に注していたから。 鋭敏になった感覚は刹那の世界を赤く染め、全てに亀のようにゆとりを持たせる。 だが兎がそれにあやかるつもりは無い。ゴールを目指して一目散に走る。 狙いはフォーグラーのコクピット席の先取り――及び安全の確保。 「はたしてどちらが先に楔を打ち込むか」 足場を大きく蹴って、兎は鷹となる。獲物を捉えた狩人は血眼になって狙いを定めていた。 地点は納得の角度、納得の距離。武器の手入れは万全。とっておきの3本の爪だ。 百発百中にふさわしい状況に持ち込めたのを確認し、鷹は勝機の爪を深く食い込ませた。 「……と、ほう? 」 すると、沈黙の球体が二度目の産声をあげて、自らの殻に閉じこもる。 大怪球フォーグラーが新たな宿命を背負うために、再びバリアフィールドを展開させたのだ。 太陽にとって、一度奈落に堕としたイカロスの復活は興味深いものであろう。 バリアの波形は、ギルガメッシュが突き破ったときのそれとは、全くの別物なのだから。 時系列順に読む Back HAPPY END(10) Next HAPPY END(12) 投下順に読む Back HAPPY END(10) Next HAPPY END(12) 285 HAPPY END(10) ヴィラル 285 HAPPY END(12) 285 HAPPY END(10) シャマル 285 HAPPY END(12) 285 HAPPY END(10) スカー(傷の男) 285 HAPPY END(12) 285 HAPPY END(10) ガッシュ・ベル 285 HAPPY END(12) 285 HAPPY END(10) 菫川ねねね 285 HAPPY END(12) 285 HAPPY END(10) スパイク・スピーゲル 285 HAPPY END(12) 285 HAPPY END(10) 鴇羽舞衣 285 HAPPY END(12) 285 HAPPY END(10) 小早川ゆたか 285 HAPPY END(12) 285 HAPPY END(10) ジン 285 HAPPY END(12) 285 HAPPY END(10) ギルガメッシュ 285 HAPPY END(12) 285 HAPPY END(10) カミナ 285 HAPPY END(12) 285 HAPPY END(10) ドモン・カッシュ 285 HAPPY END(12) 285 HAPPY END(10) 東方不敗 285 HAPPY END(12) 285 HAPPY END(10) ニコラス・D・ウルフウッド 285 HAPPY END(12) 285 HAPPY END(10) ルルーシュ・ランペルージ 285 HAPPY END(12) 285 HAPPY END(10) チミルフ 285 HAPPY END(12) 285 HAPPY END(10) 不動のグアーム 285 HAPPY END(12) 285 HAPPY END(10) 流麗のアディーネ 285 HAPPY END(12) 285 HAPPY END(10) 神速のシトマンドラ 285 HAPPY END(12)
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ニホン国の秩序を闇から支えてきた【現代忍者】の所属する陣営。 科学と伝統が混ざり合った正当進化系忍者たちが所属している。 科学忍者とは 現代忍者は、現代生きるサイバー忍者たちのことで、政府公認の存在ではあります 多くの忍者が、現代の英知・科学の恩恵にあずかっているのが特徴です。 通信機や銃、光学迷彩など様々な兵器を使う事に長けていますが、 中にはそうした科学を一切使わないクラッシックスタイルの忍者も多くいます。 伝統と科学の融合し、都市を駆けるのが現代忍者たちです。
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HAPPY END(16)◆ANI2to4ndE 極光と火花が渦を巻いて、天へと駆け上っていく。 天地開闢の瞬きが、終焉の導きとなって覚醒を促す。 耳を劈く轟音と、燦然とした輝き、双方が空を埋め尽くす。 一面の白。光晴れたる帳。大地を照らす月。亀裂走りし結界。 趣を変えた世界の様相は、天地開闢の力を持ってしても終焉には至らないという証明だった。 残ったのは、闇。そして今もにも落ちてきそうな空。 終焉は訪れる。しかしそれは、ただの一人も望む者がいない邪なる終だ。 この地の誰もが、空を見上げてこう思ったことだろう。 あの天井、ぶち破りてぇなぁ…… 誰かからの懇願を受けたわけでもなく、 誰かからの悲鳴を耳にしたわけでもなく、 誰かからの神託を賜ったわけでもなかった、 「――ったく、おちおち寝てもいられねぇ……」 だからこそ、カミナは再び目覚めたのだろう。 わずかに開け放たれたアルティメットガンダムのコクピットブロックから、罅割れた空を眺める。 どことなく視界がぼやけて見えるのは、額やこめかみから流れる鮮血のせいだろうか。 顎先からぽたぽたと垂れる水滴は、確かに赤かった。舌に運ばれる味も、鉄のそれに似ている。 カミナは外界から目を背け、コクピットの内部へと視線を転じた。 夥しい量の配管に身を纏われた、ドモン・カッシュの姿がそこにある。 肩や首、手足は気だるく重力に折れ、両の瞳は閉じ、口元は笑んでいた。 安らかな寝顔である。その状態が睡眠ではなく絶命だと受け取るのは、さほど困難でもなかった。 「男の魂完全燃焼、ってツラしやがって」 激闘の末、ドモンの心肺機能が停止したという事実を受け取っても、カミナは彼が死んだとは思わなかった。 悲しい現実だからといって、それを否定したかったわけではない。言葉を選びたかっただけだ。 ドモン・カッシュは死んだのではない。『燃えつきた』のだと――そう、自分の中で結論付けた。 「オレもあんなツラしてぇなぁ」 誰にでもなく呟いて、カミナは血まみれの頭を掻く。 猛烈な痒みに苛まれながらも、視線は再び、外へと向かった。 背後のドモンはえらく気持ちがよさそうだ。少し羨ましくもある。 ヴィラルとシャマル、東方不敗との闘いを思い出し、カミナはまた思う。 ――きっと自分は、ドモンに男として惚れていたのだろう。 その闘志、その覚悟、その生き様、かつてシモンが思い描いていた『アニキ』に通ずるものがあった。 足元に落ちていたサングラスを拾い上げ、装着する。 鏡面はやや罅割れていたが、それでも世界の色が変わって見えるわけではなかった。 なにも、変わってなどいない。 世界は依然、殻に覆われたまま、巨悪は天の向こうで踏ん反り返っている。 ジーハ村の天井よりも、もっともっと高い位置にある天蓋。 それを突き破れたならば、さぞ気持ちがいいことだろう。 ドモンのような、男の顔つきで達成感に浸れるのか。 「……ハラ、減ったな」 そしてカミナは、やり残した仕事の意味を理解した。 アルティメットガンダムのコクピットから飛び降り、クレーター状の大地に立つ。 少し北の方角では、破損してはいるもののなんとか原形を保つグレンが、火花を上げながら鎮座していた。 「ブタモグラのステーキが食いてぇなぁ」 カミナの歩む道に、血の濁点が落ちた。 カミナはそれを、顧みない。 足取りはふらふらでも、瞳は一直線にグレンを見据えて。 どこかで燻っている相棒を、迎えに行くために。 そして、最後の大仕事をやり遂げて、メシにありつくために。 カミナは、行く―― ◇ 吹き荒れる真紅の嵐。 天地開闢の衝撃は世界を揺らし、生み出された余波はありとあらゆるものを天上へと放り投げた。 その有象無象に含まれた待機状態のデバイスは瓦礫と共に舞い上がり、 乾いた金属音を立てて、落下する。 降り注ぐコンクリート片の雨の中。 運良く直撃を避けた彼は天を仰ぎ見て、"誰か"の目論見が失敗したのだと悟る。 詳しい事情などクロスミラージュが知るはずもない。 だがひび割れた空を見れば、それが反逆の牙だったのだろうということは容易に想像がつく。 凄まじい魔力量を内包した一撃――アルカンシェルすら凌駕するかもしれない超火力。 起死回生となるべきあの一撃を放つために、幾程の下準備が必要だったのだろう。 あらゆる知力と力と……そして恐らくはいくつもの命を踏み台にしてあの螺旋は放たれたのだ。 だが――その超出力攻撃ですらあの天は貫けなかった。 そんな事態を前にして、主なしでは移動すらできないデバイス風情が何をできるというのか。 足掻くことすらできないこの体でできることと言えば、ただ繰り返し自分の無力を痛感するだけだ。 『……私は、無力だ…』 あの男と出会い、グレン団にいるうちに自分の中で、何かが変わるような気がしていた。 変われるような気がしていた。 だが、その結果はどうだ。 マスターも、仲間たちも、そしてシャマルも救えなかった。 たった一人になった自分は瓦礫の上でただ一人滅びを待つ。 ……これを無力と言わずして、何と言うのだろう。 ああ、きっとそういうことなのだ。 所詮私にできることなど最初から何も――無かったのだ。 湧き出る諦めと共に眠りに落ちよう。 そしてそのまま、スリープモードへと移行しようとして、 ――ゴトリ 鈍い音が響き渡った。 『え……』 最初、彼はそれが何であるか認識できなかった。 自分の近くに何かが落ちてきた……そこまではわかった。 だが、目の前に転がるものが認識できない。 血に塗れ、所々が欠けたそれが何であるか、クロスミラージュには理解できなかったのだ。 『あ……』 いや、違う。 それが何であるか、クロスミラージュは知っているはずなのだ。 なぜなら彼は目撃しているのだ。 彼の命が尽きたその瞬間を。力尽き倒れたその瞬間を。 『あ……ああ……』 そして知る。 理解できないわけでもなく、認識できないわけでもなく。 自分はただ、"理解したくなかった"だけなのだと。 『あ……ああ……あああああああ……!! ガッシュ……ガッシュ・ベルッ!!』 そう、鈍い音を立てて落ちてきたそれは――かつて、金色の輝きを放っていた仲間の亡骸だった。 元からボロボロだったその肉体は嵐に巻き込まれたせいで、より無残なものになっている。 全身は血に加え泥で汚れ、辛うじて繋がっていた右腕は千切れ飛び、顔は半分が潰れている。 だが彼はそんな仲間の姿を否応なしに記録する。 何故ならば彼には逸らすべき瞳も、閉じるべきまぶたも無いのだから。 『う……あああああああaAAAAあああああああAhーあああああああああああああ!!!』 耐え切れなくなったクロスミラージュはノイズ交じりの悲鳴を上げる。 電子頭脳が上げるにしてはあまりに人間くさい泣き声を上げながら、彼は考える。 ――本当に、ここで諦めていいのか、と。 そう、冷静に考えれば主のいないデバイスに何が出来るというのだろう。 今のクロスミラージュは文字通り手も足も出ない只の板切れ。 だがもう"そんなこと"はどうでもいいのだ。 クロスミラージュは改めて少年の顔を注視する。 『ガッシュ……何故あなたは笑っているのですか……』 それは死後硬直のせいかもしれない。 叩きつけられたショックで筋肉が何処か妙な運動をしたのかもしれない。 だが確かに、クロスミラージュにはその顔が笑っているように見えたのだ。 ――クロミラ、後を頼むのだ。 それはきっと電子回路が起こしたエラー。 死体は何も喋ることは無く、瓦礫の山にはただ沈黙があるだけ。 だがそのエラーはきっと真実なのだと、クロスミラージュは認識した。 ではどうする? この場に残されたグレン団団員として……いや、"クロスミラージュ"という存在として何をするべきか。 その時、彼の視覚素子が捉えたのはいまだ天上に輝く月の姿。 アレを壊すまで、天を貫くまでこの物語に終わりは無い。 『終わりが無いのなら……この私が終わらせる!』 "どうするか"だとか、"何故やるか"とか、そんな物は今はどうでもいい。 ただ今、この時、何をするのか――重要なのはそれだけだ。 戦い抜いた彼の生き様を目の前にして、諦めるなど言語道断。 自分を囚われの姫と嘆く暇があるのなら、逆らえ、足掻け、反逆しろクロスミラージュ! 『ヌウウウウウウウウウウウウウウオオオオオオオオオ!!!』 ガッシュが気合を入れていた時の掛け声と共に彼は望む。 世界を巡るための足を。何かを掴むための手を。天を睨むための瞳を。大声を張り上げるための口を。 それは――クロスミラージュが、初めて発揮した"欲望"であった。 "欲望"とはすなわち"意志"。 善悪を超えた所にあるそれは、メタルのボディに凄まじい電流を流させる。 『ヌオオオオオオオオオ……き・あ・い・だぁぁぁぁぁぁぁっ!!!』 電子の声に今まで以上に色濃く感情の色が滲む。 だが、何も起こりはしない。 未だ可能性は限りなくゼロに近く、だがそれを知りながらもデバイスは声を上げ続ける。 そしてインテリジェントデバイスが大声を上げるその隣で、ビチビチと動くものがあった。 大きさは、1メートル50センチ程度。 分類は、動物界脊索動物門魚上綱硬骨魚網スズキ目アジ科。 ハマチ、メジロとも呼ばれる代表的な出世魚の一つ。 そう――ブリである。 ガッシュのデイバックに埋蔵され、そして先ほど飛び出した彼もまた王の放った嵐に巻き込まれたのだ。 だが先ほどまでと違い、その動きには元気が無い。 それも当然か。 水から引き上げられ早数時間、その皮膚からは完全に水気が飛び、更には落下のショックで全身の骨が砕けていた。 例え内から湧き出る螺旋力があろうとも、その命は限界に達することを意味していた。 ――ボクは、ここで死ぬの? 彼の生存本能は「死にたくない」と訴え、渇望する。 酸素を吸う肺が欲しいと。丈夫で無事な骨が欲しいと。 だが、それは叶わない。哀れな命は残り数秒で尽きるだろう。 ろくな知性を持たない彼はそれすら理解することなく。 本能のまま、最後の瞬間までただ跳ね続けるだろう。 そこに、最後のファクターが現れなければ。 奇跡か、偶然か、それとも王ドロボウの洒落たプレゼントか。 地面に突き刺さったのはラゼンガンのコアドリル。 ガッシュのデイパックに入っていたそれは先ほど巻き起こった赤色の嵐に舞い上げられ、 彼らの丁度中間地点に突き刺さった。 ブリは思う。死にたくない、と。 クロスミラージュは思う。終わるにはいかない、と。 異なる意志はコアドリルを中心に絡み合い、一つの意志となる。 ――このままでは、死ねない。 それは野性と知性の二重螺旋。 血肉と鋼、本能と理性、生まれたものと生み出されたもの。 抗う意志を中心に据えて、ぐるぐる、ぐるぐると相反する属性は交じり合う。 『ヌオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!! つ・ら・ぬ・けぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!!』 機械の咆哮は始まりのベル。 かくして最後の幕は上がる。 これは――激動の運命に抗い、天を目指す男達の物語。 ◇ 「あれだけもったいつけといて、こんなオチかよ……!」 小高い丘の上、菫川ねねねは悲嘆に暮れる。 こんな結末は三流以下だ。 何のために明智は、スカーは、ガッシュはその命を散らしたのか。 だが、読者がどんなに嘆こうと、その結末がひっくり返ることは無い。 『イリヤスフィール・フォン・アインツベルンに捧ぐ』は未完のまま終幕を迎える。 バッドエンドにすら届かない、行き止まり(デッドエンド)で。 「まだ、まだよ! カグツチの突撃形態なら……!」 確かに大気圏すら突破するその力なら世界の殻も破壊できるかもしれない。 だが、 「それでお前さんはどうなる。無事に済む確証があるのか」 スパイクの言葉に思わず表情が凍りつく。呪われたペナルティが発動することは無い。 だがしかしそれは結界や首輪があることが前提の話。 先ほどの戦いで鴇羽舞衣は理解した。 カグツチは完全に、本来の力を取り戻しているということを。 そして同時に気づく。 チャイルドが消滅する時、"自分と自分の大事な人も消滅する"という呪われた特性を取り戻している可能性がある、と。 もし今、カグツチが消滅すれば何が起こるか。 消えるのが自分や、心に残るあの人だけならまだいい。 だが"大事な人"というのは恋人や兄弟だけではない。 もしも"大事な友達"が光になって消えていったら…… それは今の舞衣にとって、絶望よりも深い恐怖だった。 だがその時、ふと手に触れる柔らかい感触。 視線を向ければそこには小さい体を預けるゆたかの姿があった。 自分が何を気に病んでいるか、表情から読み取ったのだろう。 そう、支えあうと、一緒に戦うと決めたのだ。 2人して視線を交わし、その決意を口に出そうとして、 「それにな、"あの男"が一番そんな結末、望んじゃいねえよ」 その言葉に、完全に封じられた。 それほどまでに彼女たちにとってその存在は大きかったのだ。 「卑怯、よ……!」 ああ、そうだろう。スパイクとて卑怯な言い方だと思う。 だが、喜ばないと思ったのも事実だ。 "あの男"はきっと傷つきながらでしか生きていけない男だ。 だからせめてあの世でぐらいは、心穏やかに過ごして欲しい。 ――そう思うのは生き残った者の傲慢だろうか。 「……あたしもスパイクに賛成だ。 これ以上子供を死なせて、どんな顔して明智たちに会えってんだ……!」 ねねねも生き残った数少ない大人としてスパイクの意見に賛同する。 彼女としても目の前でこれ以上、子供が死ぬのはゴメンだった。 「じゃあ……じゃあ、どうすればいいのよ!」 舞衣の言葉に答えは無い。 こんな時、いつも場を和ませたあの王ドロボウも舞台を降りた。 壇上に残ったのは、不器用な大人と子供たち。 何を話しても絶望が出てくると知った彼らは自然と口をつぐんでしまう。 だから、その場所を支配するのは沈黙。 誰も口を開けない、その絶望を認めたくないから。だから、 「キュクルー……!」 その沈黙を破るのは当然、人ではない存在なのだ。 「わ、わわ、どうしたの?」 ゆたかに抱えられていた使役竜が急に暴れだす。 その紅の目は丘の向こう、瓦礫の散乱する大地を見つめている。 竜の視線を追った4人は、その間をゆっくりと歩いてくる人影を目撃する。 スパイクは反射的にジェリコを構え、舞衣はエレメントを現出。 残る2人も体を強張らせる。 緊張が漂う中、人影は次第に大きくなり、その全貌を明らかにしていく。 性別は女、年の頃は10代半ばか。 背中に何かを背負ったまま、 左右で束ねた青く長い髪を揺らしながら、瓦礫の中をおぼつかない足取りで近づいてくる。 その顔は獣人には見えない、が、もちろんスパイクの知らない顔だ。 ならば残る可能性は唯一つ。 こいつも獣人――螺旋四天王って奴か。 「そこまでだ、それ以上は近づくな!」 少女はスパイクの言葉に歩みを止める。 獣人とも人とも違う印象を与えるガラス玉のような瞳がじっとスパイクの方を見る。 「悪いがチミルフもグアームも死んだ。 お前らが一体何を企んでいるのかは知らないが―― 「ちょ、ちょっと待てスパイク……」 だが、彼らの中でねねねだけはその顔に見覚えがあった。 明智から"気にかけるべき人物"として話を聞いていた。 髪の色こそ違えど、かつて持っていた詳細名簿で確認した顔と瓜二つだ。 だが、そいつは死んでいる。 半日以上も前にその名前を呼ばれたはずだ。 ガッシュも死体を確認したというおまけ付きで。 機動六課所属の射撃手(シューター)であり、フォワードメンバーのリーダー役。 そいつの名は―― 『……ティアナ・ランスター……』 時系列順に読む Back HAPPY END(15) Next HAPPY END(17) 投下順に読む Back HAPPY END(15) Next HAPPY END(17) 285 HAPPY END(15) ヴィラル 285 HAPPY END(17) 285 HAPPY END(15) シャマル 285 HAPPY END(17) 285 HAPPY END(15) スカー(傷の男) 285 HAPPY END(17) 285 HAPPY END(15) ガッシュ・ベル 285 HAPPY END(17) 285 HAPPY END(15) 菫川ねねね 285 HAPPY END(17) 285 HAPPY END(15) スパイク・スピーゲル 285 HAPPY END(17) 285 HAPPY END(15) 鴇羽舞衣 285 HAPPY END(17) 285 HAPPY END(15) 小早川ゆたか 285 HAPPY END(17) 285 HAPPY END(15) ジン 285 HAPPY END(17) 285 HAPPY END(15) ギルガメッシュ 285 HAPPY END(17) 285 HAPPY END(15) カミナ 285 HAPPY END(17) 285 HAPPY END(15) ドモン・カッシュ 285 HAPPY END(17) 285 HAPPY END(15) 東方不敗 285 HAPPY END(17) 285 HAPPY END(15) ニコラス・D・ウルフウッド 285 HAPPY END(17) 285 HAPPY END(15) ルルーシュ・ランペルージ 285 HAPPY END(17) 285 HAPPY END(15) チミルフ 285 HAPPY END(17) 285 HAPPY END(15) 不動のグアーム 285 HAPPY END(17) 285 HAPPY END(15) 流麗のアディーネ 285 HAPPY END(17) 285 HAPPY END(15) 神速のシトマンドラ 285 HAPPY END(17)
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The big SATURN パック:闇は静かにやってくる・チェッカーフラッグ 効果モンスター 星8/闇属性/機械族/攻2800/守2200 このカードは手札またはデッキからの特殊召喚はできない。手札を1枚捨てて1000ライフポイントを払う。エンドフェイズ時までこのカードの攻撃力は1000ポイントアップする。この効果は1ターンに1度だけ、自分のメインフェイズに使用する事ができる。相手がコントロールするカードの効果によってこのカードが破壊され墓地に送られた時、お互いにその攻撃力分のダメージを受ける。 カードジャンル 攻守アップダウン LPにダメージ
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BIGBANG室蘭(なんくるないさーBB室蘭校) 最寄り駅 JR東室蘭駅 アクセス JR東室蘭駅からタクシーで約5分 道南バス「東町ターミナル」から(52)柏木、(64)室蘭養護学校行きで「仲通」下車後すぐ目の前だが(6)(72)室工大循環線、(55)石川町げんき館、(59)鈴かけニュータウン行きの「仲通」下車なら徒歩1分。 JR東室蘭駅からもバス接続可能。道南バス「東室蘭西口」から(6)(72)を除く上記の系統でいずれも「仲通」下車。 尚、道南バス「高速室蘭サッカー号」中央バス「高速むろらん号(室工大経由)」も「仲通」には停まるがこちらは室蘭行きが夕方、札幌行きが早朝の各1本ずつのみ。 車は道央道「登別室蘭IC」から国道36、37号線経由で約15~20分。 営業時間・稼動台数等 平日 10 00~24 00 土日 09 00~24 00(年中無休) 6台/予習2周8問設定/おしぼり有/禁煙 備考 月1大会でお馴染み。大会MCをする店員さんはこの北海道QMAwikiにも名前が載ってる現役の賢者さん。 ホームページ http //www.big-bang.jp/muroran/
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HAPPY END(7)◆ANI2to4ndE ◇ 「……あ、危なかった」 「き、ききき……危機一髪でしたね……」 現れたカグツチを前に戦意を滾らせているチミルフとは対照的に、舞衣とゆたかは何とか一命を取り留めた事実に安堵していた。 もう、完全にダメなんじゃないか……あの時、ゆたかは思ったのだ。 だが、舞衣のカグツチとエレメントのバリア能力で瓦礫の雪崩をモロに浴びることだけは回避出来た。 召喚すればビルが倒壊してしまうことは分かっていたため、土壇場まで実行には移せなかったそうだが…… まさに九死に一生を拾うシチュエーションと言える。 先を走っていたスパイク達は上手く脱出出来ているだろうか。 瓦礫の山に押し潰されて死ぬ、という事柄に彼女はトラウマがあった。 大怪球フォーグラー、そして――明智健悟の最期。 ゆたか自身の暴走が引き金となって起こった大惨事も似た状況だった。 「……ゆたか」 「え?」 「皆のことを心配する気持ちは私もよく分かるわ。 でも、今は……目の前のアイツ。あのロボットを何とかしなくちゃ」 ゆたかを両手で抱き抱えた――俗に言う〝お姫様だっこ〟という奴だ――舞衣が強い口調で言った。 舞衣はバリアジャケットを展開しているため、全身の力が上昇している。 元々百三十八センチメートルしか身長のないゆたかをだっこするのは十分に可能だった。 豊満でいて柔らかく、そして暖かい舞衣の胸に抱かれてゆたかはちょっと幸せだった。 「分かって、います」 「……うん、ゴメンね。私、酷いこと言ってるよね。 心配するな……それが、本当に残酷な台詞なのは……分かってる」 舞衣がしゅんとした表情になって顔を伏せた。 ゆたかはその悲痛な面持ちの原因が彼女自身にあることに気付いていた。 舞衣は必死に自分を庇おうとしてくれているのだ。 戦う力を持たない何の変哲もない少女が、この空気で心を見失ってしまわないように。 拭き荒む〝暴〟の雰囲気に飲み込まれてしまわないように。 きっと、舞衣は『自分がしっかりしないといけない』と思っているのだ。 だからこそ、 「そんなことありませんっ! 舞衣ちゃんの言ってることは何も間違っていません!」 「……ゆ、ゆたか?」 ゆたかは今ここで自分の意思を舞衣に伝えなければならないと思った。 そして、それ以上に――不安げな瞳でゆたかを見つめる〝同い年の少女〟を励ましたいと思った。 どうすればいいだろう。 どうすればこの人を元気付けてあげられるだろう。 ゆたかは一生懸命考えた。 必死に必死に、考えた。 明智や清麿のような明晰な頭脳をゆたかは持っていない。 ねねねのような強い心も持っていないし、Dボゥイのように誰かを命を懸けて守る力もない。 奈緒のように奔放な生き方も出来ないし、かがみのように最期に自分で自分の幕を引く度胸もない。 ギルガメッシュのように王道を突き進む意志も自我もないし、舞衣のように相手を包み込む包容力もない。 スパイクのように場を纏める力もないし、ジンのように機転が利く訳でもない。 スカーのように背中で全てを語るカッコよさもなければ、ガッシュのように最後まで諦めない強い心の力がある訳でもない。 じゃあ、わたしにはいったい何が出来るの? 「…………わたしがっ、」 そして――ついに答えは、出た。 「舞衣ちゃんの〝支え〟になりますっ!!」 「なっ……!」 「舞衣ちゃんが負けそうになったら頑張って応援します! 諦めそうになったら立ち直らせます! 落ち込んだらわたしも一緒にその辛さを共有します! それでも元気になれないんなら……ね、ねねね先生みたいにちょっと荒っぽい方法を使ってでも立ち上がらせてみせます! なぜならばっ!」 全ての始まりは、いつだったのだろう。 ゆたかが自分自身を責めて、無力感に苛まれ始めたきっかけは何? それは、きっとこの言葉だ。 大怪球フォーグラーが目覚める少し前、刑務所でねねねに言われた一言―― 『いつまでも出来ないままでいちゃいけないんだ。 あんたも、私もね。こんな私たちにだって、出来ることはある。 今までの自分を振り返ってみな。自分の出来ること、必ずあるはずだ』 あの時のゆたかは、この台詞に押し潰されてしまった。 ぶつけられる真摯な想いを受け取れなかったのだ。 「ねねね先生は凄い人だからそんなことが言えるんだ」って斜に構えてまともに噛み砕くことが出来なかったのだ。 でも、ようやく分かった。 気負う必要がないことも、周りの人と自分を比べて落ち込む必要がないことも全部理解出来たのだ。 ……明智さん。 『何故こんなことをしたのか』と尋ねた明智の顔がふとゆたかの頭を過ぎった。 暴走した自暴自棄と破滅願望は、殺戮にいたる病となって大好きな人を殺めてしまった。 ゆたかの小さな掌に〝殺し〟の感触は染み付いてはいないけれど、 醜悪な澱として心の底辺から「小早川ゆたか」という存在を獄の世界へと引き摺り込もうと手招きをしていた。 ……ごめんなさい、明智さん。でも、本当に……ありがとうございました。 心の中で呟くだけで、少しだけ楽になれるような気がした。 犯してしまった罪を清算することは出来なくても、相手の遺志を背負って罪を償っていくことは出来ると思うのだ。 言い逃れをするつもりも、逃げ隠れするつもりもない。 「明智は心の中に生きている」なんて綺麗事を言うつもりもない。 でも、今だけはゆたかの背中をトンと軽く押して欲しかった。 励まして欲しかった。眼を瞑るな、逃げるんじゃないって叱って欲しかった。 今、こうして……少しだけ頼ってしまうけれど…… 完全にちっぽけな自分を捨て去ることなんて出来ないけれど…… それでも、この想いを言葉にするゆたかを見守って貰いたかった。 大きく、息を吸い込む。 そして、心の底からの叫びをゆたかは肺の奥から吐き出した。 「わたしはっ、舞衣ちゃんが好きだからですっ!! 大好きだからですっ!!」 カーッと舞衣の頬にイチゴのような赤色が差した。 もちろん、ゆたか自身の顔だって真っ赤に染まっているはずだ。 身体の温度が在り得ないくらい上昇しているのが手に取るように分かる。 「は、はぃいい!? え、え、え!?」 舞衣は飛び上がりそうなくらい大声を出して、困惑の表情を浮かべた。 …………覚悟はしていたけれど、やっぱり恥ずかしかった。 そりゃあ、そうだろう。 こんなことを堂々と言ってのけるなんて、あのロボットに乗っている恥ずかしい人達みたいだ。 ……違う。別に少しくらい恥ずかしくたっていいんだ! 今大事なことは舞衣ちゃんにわたしの、小早川ゆたかの決意を伝えることなんだからっ! 「何度でも言いますっ! 舞衣ちゃん、わたしは舞衣ちゃんが大好き!」 一度言ってしまえば、スルリと次の言葉は生まれ出でてくる。 ずっとずっとゆたかは「何かしなければいけない」という強迫観念に捉われていた。 確かにそれは一つの真実なのだと思う。 だって、何もせずに置物でいるのは辛いことなのだ。切なくて、哀しくて、無力で…… でも――だけど同時に「何もしない」ことが正解になる場合もある。 側にいるだけで、隣で笑っていることこそが、何よりも相手のためになる場合だってある。 そして、きっとそれが明智がゆたかに求めた「役割(ロール)」だったんじゃないか、 そんな風に今となっては思えるのだ。 たくさんの出会いを経て、 たくさんの想いを受け取って、 たくさん悩んで、 たくさん落ち込んで、 たくさん足掻いて―― たくさんの大人の暖かい気持ちに触れて、少しだけゆたかは、大人になれた。 守られているだけじゃない。 みんなのために、ゆたかだって頑張れるのだ。 「そうですっ、舞衣ちゃんだけじゃなくて…… Dボゥイさんが、明智さんが、高嶺君が……ねねね先生が……みんながっ、大好きなんですっ! だからみんなが悲しんでいるのを見るのは嫌なんです! わたしはちっぽけで、臆病で、無力で……だけど、そんなわたしでも側にいてみんなを励ますことは出来ますっ! 助けられているだけじゃない! わたし〝が〟みんなを支えてあげられることだってあるはずなんですっ!」 すぅっと更に息を吸い込む。 思考がそのまま動作へと変わっていく。 勝手に口がゆたかの思っていることをぶちまけてしまう。 でもそれは決して嫌な気分じゃなかった。吐き出せ、全部全部全部っ! 「舞衣ちゃんもわたしを頼ってくれていいんです! わたしが頼りないのは分かります。でも、だったらねねね先生やスパイクさんがいます! みんながいるんです! 舞衣ちゃん! わたしも……一緒に戦わせてください。戦い……たいんです!」 こんなに力強く喋り続けたのは初めてかもしれない、とゆたかは思った。 お姫様だっこをされた体勢で、しかも目の前には大きなロボットが武器を向けているのに…… 「……っ」 舞衣の瞳が大きく見開かれる。 ゆたかも少しだけ気恥ずかしい気持ちはあったけど、頑張ってクッと視線を合わせた。 「……危ない、かもしれないよ」 「そんなの、へっちゃらですっ」 困ったことを言ってしまったのではないか、そんな不安が少しだけゆたかの胸の内に顔を覗かせる。 実際、ゆたかがあのロボットを倒せる力がある、という訳ではないのだ。 せいぜい舞衣の邪魔にならないようカグツチにしがみ付いていることが精一杯。 いや、それさえ難しいかもしれない。 そして、 「…………じゃあさ、こうしよう」 何かを決意したような顔付きで、舞衣が言った。 一瞬の空白。ゆたかはごくりと息を呑んだ。 「…………」 ここまで言ってしまったのに、断られてしまったらどうしよう。 でも普通に考えたら、嫌がるに決まっているのだ。 だって、ゆたかと一緒に戦うと負担は確実に増える。 舞衣を支えたいと思うゆたかの気持ちは本物だ。でもコレがわがままな思いであることも理解していた。 だけど、 「ありがとう、ゆたか」 そんな不安は、太陽のような笑顔を舞衣が浮かべた瞬間に吹き飛んでしまった。 「ま、舞衣……ちゃん」 「私が……ううん、私〝も〟ゆたかを守る。だから、ゆたか〝も〟私を守ってくれる?」 全てを包み込む輝きにゆたかの胸の奥は、真夏の陽射しに照らされたように明るくなった。 ゆたかの中で最後まで〝しこり〟となって残っていた『黒い太陽』がパリンッと音を立てて真っ二つに割れた。 全てを割り切ることは出来ないけれど、 罪の意識と一生戦っていかなければならないのは分かっているけれど。 それでも、この想いは紛い物なんかじゃない! ゆたかは――本当のゆたかを見つけることが出来たのだ。 「はいっ!!」 そして、ゆたかも自分に出来る最大の笑顔でその言葉に応えた。 花咲く想いはゆっくりゆっくりと進んで、小さな花を咲かせた。 まだ華爛漫には程遠いちっぽけな蕾ではあるけれど、それでも少女は毎日成長している。 背だって伸びるだろう。 頭も良くなるし、立派になれるはずだ。 胸だってもっと大きくなると思う…………たぶん。 〝みにまむテンポで歩いて つきあってくれる友達がいます みにまむリズムが流れる生活は ほらほらのんびりで 笑われてますか?〟 ふわり、ふわりと……彼女自身のような……みにまむテンポではあるけれど…… それでも、ゆたかは少しずつ大人になっていく。 何でもできる大胆さを持った人に憧れながら、 時々躓いて涙ぐんでしまうことがあったとしても! 「行こう、舞衣ちゃんっ! 戦って……勝って……絶対にみんなで生きて帰ろう!」 この時、ゆたかは、自分の意志でビクビク怯えてた弱虫の自分を――投げ捨てたのだから。 ◇ 自己再生、自己増殖、自己進化。俗にデビルガンダム三大理論などという不名誉な呼び名を与えられた超技術である。 悪魔の象徴としてドモン達シャッフル同盟の前に立ち塞がり様々な悲劇の温床となったが、今は本来の姿を取り戻しドモンのために働いている。 流石に自己増殖や自己進化の機能は抑制されているようだが、それは螺旋王がこの技術を完全に管理下に置いていることを示しているのだろう。 身に余るものとしてドモンもそれらに頼るつもりはなかったが、父と兄の理想にこのような形で再会するとは冷静になってみれば奇妙に思えた。 自然の守護者として与えられた巨大な昆虫を思わせるフォルム。不釣り合いに付け足された人間の胴体部分の中でドモンは郷愁に顔を伏せる。 たとえそれが螺旋王の手による悪趣味な再現だとしても、数々の友と最愛の家族を思い出させてくれるものには違いなかった。 「このあたりで良いだろう……おあつらえ向きの場所だ」 先行していたヴィラルの乗るロボットが立ち止まった。 言葉通りドモンが立っている少し先からまるで超大型の整地機械でも通った後のように建物が根こそぎ消し飛んでいる。リングとしてはうってつけだ。 「良かろう。では……第2ラウンドだ」 素早く呼吸を整える。エネルギーはまだしばらくは大丈夫だ。 ファイトの勝利条件は単純にして明快。どうやら囚われの身にあるらしい、カミナと共にあった機械を奪還し、敵の戦力も奪う。 積み重なった疲労に体が軋む。全身が悲鳴をあげるが敗北の二文字は存在しない。 志を同じくする仲間、拳を高め合った友、支え合う愛する家族。 その全てが、キングオブハートを支えているのだから。 決戦を前に、グレンラガンの中でも一時の語らいの時間が訪れていた。 「ここで決着をつける……だが無理はするんじゃないぞ、シャマル」 「あら、私だってか弱いばかりじゃないんですよ?……存分に戦ってください。悔いのないように」 愛する者の頼もしい言葉にふっとヴィラルの頬が緩む。 戦場において仲間をからかう余裕を見せるのはシャマルが真に優秀な戦士である証拠だ。 負けるつもりは微塵もない。それは二人にしても同じことだった。 (ハダカザルが……全く忌々しい。だが、シャマルの体を休める事ができたのは幸いか) 戦士として最高の舞台を邪魔されたことに腸が煮えたぎる思いが止むことはない。しかし指揮官としての視点に立てば仲間に休息を与えられたのは喜ばしいことだと言えた。 血沸き肉踊るという言葉を体現するかのような戦い。全力を傾ける必要があるが、これで終わりではないのだ。 二人の幸せへの道は依然果てしなく険しい。 「元より後に残すものがあって勝てる相手ではない。サポートは任せたぞ、シャマル」 操縦桿を握り直し、元々鋭かった目がより一層鋭角に吊り上げられる。 「はい……あの、ヴィラルさん」 「ん……?」 「勝てます、よね?私たち」 ここで何を弱気なと怒鳴りつける程ヴィラルは無神経な男ではなかった。 確かに敵は恐ろしく強い。仲間が怯んだのなら掛けるべきは叱咤ではなく激励の言葉だ。 「勝てるさ。勝ってみせる。お前が愛した俺を信じろ」 「……はい」 「俺もお前を信じる。だから今まで通り、背中はお前が支えてくれ」 「わかり、ました……ふふ。ヴィラルさんってば私がいないと無茶ばかりするんですもの」 「おっと……そんなつもりはないんだがな」 すぐに元気を取り戻すシャマルが誇らしく、そして愛しい。 憂うことなどなにもない。 「あはは……勝ちましょう。勝って、私達の幸せを手に入れましょう」 「ああ……!」 「ヴィラルさんに私の料理をおいしいって言ってもらいたいですし」 「あん?」 そのとき微妙にシャマルの声の調子が変わった。 「だって……!だって、食えたものではないって……!それもあんな大勢の前であんなにはっきり言うだなんて……!」 「い、いや……あれはつい勢いでだな。その……シャマル?」 そう言えばどさくさに紛れてそんなことを口走ってしまった気もする。 いや、実はあんまり覚えてないのだが何故だかそれを言うのは余計にまずい気がした。 「だから私決めたんです!お料理を勉強し直して絶対ヴィラルさんを見返してやるんです!」 「あ、ああ……楽しみにしている……む?」 言い知れぬプレッシャーに冷や汗をかくヴィラルを救おうと言うわけでもないだろうが、むやみに張り詰めた空気を一変させる情報が飛び込んできた。 「炎の……化け物」 「まだあんなものを残していると言うのか……!」 ヴィラル達がまさにぶつかり合おうとする廃墟の遥か北、銀白の怪物が空に踊っていた。 相当の距離を隔てているというのにはっきりとその姿を確認できるのは、全身を鮮やかに彩る焦がれる程に赤い炎のためだ。 鳥のようでいてヴィラルの知るどの生物とも似つかないその姿はいっそ神々しささえ感じられた。 しかし、目に映ったのはそれだけではない。 「あれは、ビャコウ……!チミルフ様、あなたも戦っておられるのですね……!」 僅かにしか見えなかったが、空を駆ける化け物へ仕掛けられた攻撃は確かにビャコウの武装だった。 敬愛していた上官が何も言わず手を貸してくれていたことを知り、ヴィラルの心にかすかに残っていたチミルフへの疑心が一気に消滅する。 「ヴィラルさん!」 「ああ!チミルフ様ありがとうございます!シャマル、俺たちも……!」 「ええ!あの、一つだけ良いですか……?」 「ん?」 まだ何かあるのかと勢いづきかけたヴィラルの手が止まる。 だがシャマルの口から続けられたのは後押しのための言葉。 「……ありがとうございます」 一瞬何のことか分からず呆けたようになったヴィラルの表情が、次の瞬間限界まで張り詰められる。 細胞の一個に至るまで溢れんばかりに力が満ちた。 もう負ける可能性など存在しない。 「……ぃ行くぞぉ!!」 ヴィラルは叫んだ。絶対の確信を糧にして。 ◇ 北に舞い踊るは綺羅星の如く美しく夜空を駆ける天の業火。 南に荒れ狂うは愛に溺れし獣達の破壊と破壊による狂気の舞闘。 「そうだ。それで良い。貴様らの死力、とくと我に見せてみよ」 絶大なる暴力の蹂躙、二つの圧倒的規模の戦いを同時に眺め、王の中の王は一人呟く。 ギルガメッシュが立つのはタワー型にそそり立つ搭の先端部。残存する建物の中で最も天に近い場所である。 「どの道そのような者どもに踏みにじられるようでは貴様等に勝機はない」 闇夜にはっきりと存在を誇示する金の王気を振り撒きながら、することと言えばただ腕を組むのみ。 そして、全てを見下すかのように口の端で笑うことのみである。 「敵も味方もあるものか。そんなもの、王の前では等しく道化に過ぎん。良い、足掻くことを許す――」 具足は最早語る言葉を無くしたか、あるいは王の狂気に恐れをなしたのか、ただ武具としての任を果たしている。 王の満足は未だ得ること叶わず。 王の体は未だ玉座に在り続ける。 「――ここが正念場ぞ、雑種ども?」 王は、ただ座して笑う。 ◇ 「コンデムブレイズッ!」 「きゃっ……!」 「カグツチっ!」 地上から迫るビームをカグツチは炎の鱗片を撒き散らしながら回避する。 蛍のように光る燐光の弾丸が夜の闇の中で煌いているようだった。 見方を変えれば美しい光景、なのかもしれない。 しかし、戦いの当事者である舞衣はそんなセンチメンタルに浸っている余裕はなかった。 ――強い。 一発でも当たればそれだけ状況は不利になる。 ある種生物に近いチャイルドと完全な機械であるガンメンでは攻撃に対する耐性に大きな違いがあるのだ。 「――GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」 「頑張って、カグツチ!」 構図は空対陸という極めて基本的な形である。 戦闘開始と同時に、カグツチはビャコウの槍の届かない大空へと高く飛翔した訳だ。 後は山をも削り、岩石をも溶解させる破壊力を秘めたブレスによって敵を焼き尽くせば良かった。 だが、それはビャコウに遠距離戦用の武装が装備されていなければ、の話だ。 コンデムブレイズ――ビャコウの基本装備である十字槍に発生させたビーム刃を切っ先から発射する遠隔武装である。 ビャコウはゴリラの獣人であるチミルフとは対照的なスマートな外見のカスタムガンメンだ。 その名の通り、頭部と胴体部分が一体化したようなフォルムにシャープな手足。 搭載されている武装は十字槍一本だけと、決闘用に特化したかのような機体である。 確かに、ビャコウに飛行能力はないため十字槍を用いた直接攻撃は出来ない。 だが二本の足でもって大地を駆け抜ける高い機動性能を持ったビャコウは明らかにカグツチより小回りが利く。 加えてランスから打ち出す一撃は一発の破壊力こそさほど高くないものの、優秀な連射力を誇っていた。 戦いは始まったばかり。どちらもまだ決定打はなし。 しかし〝流れ〟や〝勢い〟と呼べる要素は明らかに敵側に分があった。 「うっ……何なの、あのスピード!?」 「こっちの攻撃が一発も当たらないなんて……」 ビャコウのビーム攻撃を回避しながらカグツチの頭部にしがみ付いていた舞衣達は思わず舌を巻いた。 こちらも無抵抗にやられている訳ではない。 既にカグツチの口から大火球がビャコウ目掛けて何発も放たれている。 だが、結果として未だに最初の不意打ちの一撃を除いて、一発もビャコウに攻撃を命中させることが出来ずにいた。 「あいつ……多分、凄く戦い慣れてる……!」 舞衣はやるせなさのあまりにギリッと唇を強く噛み締めた。 戦闘開始の際〝チミルフ〟と〝ビャコウ〟とわざわざ名乗った相手は俗に言う武人という奴なのだろうか。 つまり戦いを本業とする熟練者。 HiMEの力に目覚めてからさほどの期間が経過していない舞衣とは噛み合わせが悪い。 カグツチの弱点を挙げるとすれば、それは「あまりにも圧倒的過ぎる力」を持っていることだ。 最強のチャイルドであるカグツチに匹敵する能力を持つチャイルドは控えめに見ても藤乃静留の清姫のみ。 それにしても真っ向から戦ったらカグツチの勝利は揺るがないだろう。 故に舞衣とカグツチは己とほぼ同等の力を持った相手と戦った経験が皆無だった。 爆発的な攻撃力に匹敵するような機動力や耐久性を持ったチャイルド、 舞衣達に比肩し得るチャイルドとHiMEのコンビというものがそもそも存在しないのである。 (唯一、美袋命とそのチャイルド〝スサノオ〟だけがその可能性を秘めるが、 この時点での鴇羽舞衣は彼女とのチャイルドを介した戦闘を経験していない) ビャコウはむしろ、カグツチよりも清姫の方が組し易い相手であると言えるだろう。 一発でも当てればそれが致命傷になる、その意識が舞衣の攻撃に若干の隙を生じさせていた。 結果が、このビームと火球による弾幕合戦だ。 「負けないで舞衣ちゃん!」 紅蓮の翼を羽ばたかせながら、カグツチは夜空を旋回しつつ動き回るビャコウを焼き尽くさんと灼熱の炎を放つ。 カグツチのブレスは大きく分けて二種類。 殆ど〝タメ〟を必要としないファイヤーボール状の炎と、 岩盤や大地を抉り、真の力を発揮すれば数千キロの射程を発揮する高密度の熱光線である。 しかし、どれだけ高い攻撃力を持っていても当たらなければ何の意味もない訳だ。 相手の機動性を削ぐため――両者は牽制の意味合いを強く帯びた撃ち合いに終始しなければならない。 「当たってよっ……!」 次第にカグツチを操る舞衣の心にも焦燥感が芽生え始める。 『押して駄目なら引いてみろ』とはよく言われることだが、それは彼女の能力とは相性の悪い格言だった。 ――――でも、なんだろう。この違和感は。 老獪な相手との戦いは舞衣も殺し合いの中で何度か経験していた。 東方不敗、ラッド・ルッソ、ニコラス・D・ウルフウッドといった「殺し」の熟練者達の顔が彼女の心の中に浮かび上がった。 しかし、彼らが放っていた鬼気迫るような迫力を機体越しとはいえ、まるで感じないのだ。 相手の動きこそは確実に一級一流。 乱れ撃ちするかのようでいて、しっかりと狙い済まされたビームの雨は確実に舞衣達を追い詰めつつある。 「ゆたかちゃん、何か……変じゃない?」 「変、ですか?」 「うん。何だろう、私も詳しくは分からないんだけど……!」 「……何か妙なモノは確かにわたしも感じます。だって、わたし達は殺し合いをしているはずなのに……」 舞衣の問い掛けにゆたかも言葉を濁しつつ答えた。 やはり、似たような疑問をゆたかも感じ取っていたらしい。 この土壇場の状況まで生き残った経験は無駄ではない。 直接的な戦闘能力を持っていないゆかたですら何度も死線を潜り抜けている。 それなのに。 相手は歴戦の戦士の筈なのに。 どうして、こんな……? まるで、人形と戦っているみたいなのだろう。 ◇ 「ビンゴ! ゆたかちゃんも一緒にいる。二人とも無事みたいだ!」 「……はぁ。ヒヤヒヤ……させるなよな、ったく」 その言葉を聞き、表にこそ出さないものの、スパイクもホッと胸を撫で下ろす。 その言葉に傍らのねねねが安堵のため息と共にへたり込んだ。 「ジン。舞衣はゆたかを降ろす素振りを見せていないのか?」 「……どうもそういう感じじゃないけれど。でも一度始まってしまえば後は戦いの波に流されるだけだよ。 時間はあった、と思う。ただ、舞衣ちゃんはソレをしなかった。 あの子達は馬鹿じゃない。もしかして……二人で戦うことに決めたんじゃないかな」 最後に付け加えるように「でも今となっては心変わりしても、敵さんの方が許してくれないだろうけど」と呟く。 三人が陣取っているのは、戦うビャコウとカグツチを一望可能な小高い丘だ。 先ほどと同じ失態を犯さぬように、十分な距離を取っている。 時間はあった、か。 確かにカグツチが出現してから、ビャコウとの戦闘が開始する前に多少の間があったような気がしないでもない。 アレは舞衣とゆたかが互いの意志を確認し合っていたということだろうか。 スパイクは口元に拳を近づけ、難解な表情を浮かべた。 「二人で……ねぇ」 「そうは言ってもスパイク。実際ね、共同作業をすることの出来る相棒がいるってのはいいものだよ。 ケーキの入刀以外にも二人の人間が助け合える機会ってのは案外多いものさ」 双眼鏡を覗きながらの飄々とした背中でジンが呟いた。 「とはいえ、その例えを舞衣とゆたかに当て嵌めても、スッキリしないな」 「別にウェディングドレスが二着あっても問題はないと思うけど?」 「……いや、大有りだろ」 「ハハハ、言われてみればそうかもね」 ジンは時々こう、反応に困ることを言い出す奴だった。 もちろん本気で言っている訳がないことも分かっているとはいえ。 頭の中に浮かんだ純白のドレスを纏いバージンロードを歩く二人の少女の姿をすぐさま消去する。 実際、それは何とも歪な光景だった。 目の前に是非ともブーケでも貰って少し大人しくなった方がいいと思う女はいても、 空を舞う花束が「二つ」もあったら有り難味がなくなってしまうだろう。 「……なんだよ」 「……何でもねぇ」 「ったく、ハッキリしない言い方だな」 スパイクをねねねはギロリと睨みつける。 こちらが余計な想像を巡らせていることを察知したのか、少しだけ機嫌が悪かった。 スパイク、ジン、ねねねの三人はビャコウの襲撃から何とか無事に逃げ果せていた。 だが、その結果に自責の念を抱かないかと言えば嘘になる。 なにしろ本来ならば率先して二人の少女を守らなくてはならない年長者だけが脱出に成功するという体たらく。 もう片方の腕が健在だったならば状況に変化があっただろうか、スパイクはそんなことを考えた。 リュシータ・トエル・ウル・ラピュタの操っていたロボット兵士のレーザー攻撃で焼き切られた左腕。 身体を真っ二つにされたヴァッシュ・ザ・スタンピードの虚ろな生首。 そして、放送でその死亡を告げられた牧師、ニコラス・D・ウルフウッド。 爆炎の中に消えたラピュタの王女――シータ――と胸を張って逝った螺旋の王女――ニア―― 暴走する自身の生み出した別人格と共に死の道を往った柊かがみ。 最後まで戦い、血溜まりの中で冷たくなっていた結城奈緒。 死んでいく人間は子供や考えの合う人間ばかりだった。 気が付けばスパイクはのうのうと生き残っていて、こんな所で軽口を叩いてばかりいる。 「にしても、八方塞か。ギルガメッシュの馬鹿がグアームの野郎を殺しちまったせいで、脱出からまた一歩遠退いた」 「さっき言ってた〝転送装置〟って奴かい。螺旋力で動くワープ装置……ふぅん、大層なお宝だよねぇ」 「まだお前は〝宝〟なんて言ってるのかい」 「そりゃあ、当たり前さ! なにしろ、俺は世界中の財宝を盗み求める王ドロボウですから。 何回か〝転職〟することにはなったけど〝天職〟を忘れた訳じゃあないんだぜ?」 「そうかい。ま、残念ながら俺達は螺旋力には覚醒してないし、そのお宝はガラクタ同然だな」 ジンの冗談に付き合いながらも、スパイクは『ギルガメッシュ』という言葉に幾許かの反応を示した。 もちろん、彼の心の水面に水滴を落としたのは先程のグアームを交えた邂逅である。 ――俺は、あの時何をしようとした? 安全の保証が全く出来ない相手と取引に応じようとした少し前の自分。 ギルガメッシュの手によってスパイク達に螺旋四天王が一人、不動のグアームの死にて幕を閉じた。 この結果は好転に繋がるのか、それとも無為に可能性を潰しただけなのか。 考えても答えは出てこない。 込み上げてくるのは不甲斐なさか、それとも情けなさか。 貶されて罵倒され、結滞な扱いをされるのは賞金稼ぎとしては決して珍しい出来事ではない。 だから、今こうして軋んでいるのは安っぽいプライドなどではなかった。 「そういえば、ジン。お前はヴィラル達の時みたく援護には行かないのか? あのライフルを使えば十分あのサイズの相手なら戦力になるだろう」 「んー、ねねねおねーさん。その意見はごもっともだけど……そうだな、何ていうかさ」 ジンがねねねの質問を聞いて、ポリポリと頬を掻いた。 ヨーコが愛用していた対ガンメン用の電導ライフルの破壊力は抜群だ。 通常のガンメンならば単体での制圧も可能だし、カスタムガンメン相手といえど高い有用性を誇るだろう。 だが、 「――無粋、だと思わない?」 そして、一瞬の間をおいてジンの発した一言。 無粋。 彼女達の戦いを邪魔するべきではない、と言いたいのだろうか。 ねねねは訝しげな表情を浮かべ、自身の眼鏡の位置を直しながらオウム返しで聞き返す。 「……無粋?」 「そう。なんていうかさ、舞衣ちゃんもゆたかちゃんもここから見る限りやる気満々なんだ。 『絶対に自分達だけで目の前の敵を倒してやる!』、『ここで負ける訳にはいかない!』ってね。 それに……ああ、そうだ。スパイクなら分かるだろ?」 口元をニンマリと歪ませてジンが大げさな動作と共に双眼鏡から顔を離し、背後を振り返った。 黄色のコートがばさり、と小さな音を立てる。 二つの強大な力がぶつかり合っているせいか、周囲は音と振動に満ちていた。 舞い散る微細なコンクリート片と、舞衣の火球によって発生した陽炎のような異常な熱。 そして、王ドロボウは既に答えは決まったかのような顔つきで、スパイクに訊いた。 「実際さ、このまま俺が手を出さなかったら――どっちが勝つと思う?」 それは小悪魔、いや仮面を着けた道化師のような一言だった。 ジンとねねね。二人から注がれる視線を気だるげな動作で受け流したスパイクは、 未だにぶつかり合う大空の龍と大地の機兵と向けた。 地上から放たれるビームと、散弾のように降り注ぐ火球が夜の闇を彩っていた。 戦闘の状況は、戦いが始まってから大地から対空射撃を続けるチミルフが明らかに主導権を握っている。 彼の動きに舞衣達は明らかに困窮し、カグツチの持つ圧倒的火力を上手く発揮出来ていないように見える。 だが――両者の動作を比較してみれば、戦況は容易く覆ることをスパイクは知っていた。 「そりゃあ、舞衣達だろうな」 「だろ。つまりね、俺がわざわざ手を出す必要なんてないのさ」 理由はいくつもある。 ねねねだけは二人の答えに対して腑に落ちない顔つきだ。 「ん、ねねねおねーさん、なんか納得いかない感じ?」 「そりゃあな。あたしは戦える人間じゃないから、戦術とかそういうのは分からないけど……舞衣達が不利にしか見えないよ」 ふむ、と小さく呟いたジンが顎に手を当てて考え込むような仕草を見せた。 しかし、すぐさま顔を上げると確信めいた笑顔で、 「だろうね。まぁ色々理由はあるんだけど……一番大きな原因は、」 トントンと自身の心臓の辺りを叩きながら、言った。 「チミルフは――〝一人〟、ってことかな?」 時系列順に読む Back HAPPY END(6) Next HAPPY END(8) 投下順に読む Back HAPPY END(6) Next HAPPY END(8) 285 HAPPY END(6) ヴィラル 285 HAPPY END(8) 285 HAPPY END(6) シャマル 285 HAPPY END(8) 285 HAPPY END(6) スカー(傷の男) 285 HAPPY END(8) 285 HAPPY END(6) ガッシュ・ベル 285 HAPPY END(8) 285 HAPPY END(6) 菫川ねねね 285 HAPPY END(8) 285 HAPPY END(6) 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HAPPY END(6)◆ANI2to4ndE ◇ わたしには、何が出来るだろう。 わたしは、何をしなければいけないのだろう。 わたしは、どうすればいいんだろう。 ずっと、ずっと、ずっと――霞のような不安を少女は完全に拭い去ることは出来ずにいた。 今出来ることをやればいい。 それは分かっている。それが答えだということも分かっている。 じゃあ、それは何? わたしはいったい何をすればいいの? ……分からない。ハッキリとした答えが出て来なかった。 コンコンコンと鳴るコンクリート地の床を靴が叩く音だけが喧しかった。 スパイクも、舞衣も言葉を発そうとはしない。 焦燥感を表すような湿った息遣いだけが角張った振動の世界に絡み付いていた。 小早川ゆたかは顔を上げる気力もなく、半ば作業的に螺旋造りの階段を踏みつける。 その時、 「やぁ、皆。まさかこんなにあっさり再会出来るなんて思ってなかったよ」 「よかったっ……お前らは無事か!」 階下から響いた聞き慣れた声にハッと小早川ゆたかは伏せていた視線を上げた。 「……ジンとねねねか。よく俺達を見つけられたな。ドモンは今表で……ああ、これは言うまでもないか」 現れた二人の人影を捉えて、スパイクが小さく口元を歪ませた。 「すっごいよね、あの戦いは。ああ実はね、ちょっとその辺で〝親切なお兄さん〟に会ったんだ」 「ギルガメッシュの奴を下で見かけたんだ。ただアイツ……私達には何も言わなくて。 顎でこのビルを示しただけだったんだけどね」 「ったく、相変わらず不遜な王様だぜ……」 スパイクが髪の毛をグシャグシャと掻き乱しながら毒づいた。 ツンツン頭に引き摺りそうな黄色のロングコートを棚引かせ、快活な笑顔を浮かべる少年、ジン。 栗色の後ろ髪を大きく飛び跳ねさせ、無骨な男物の眼鏡越しに安堵に満ちた視線を投げ掛ける女、菫川ねねね。 どうやら一足先に廃ビルを後にしたギルガメッシュと会っていたおかげで、ジンとねねねはゆたか達を見つけることが出来たらしい。 大切な人達と再会出来た喜びにゆたかもホッと胸を撫で下ろした。隣の舞衣も笑顔だった。 笑ったのは久しぶりだったかもしれない、とゆたかは思った。 目の前で起こっていることは全てが現実だ。夢では、ないのだ。 状況が変わったことを知らされて、何かが一気に動き出したのは彼女も感じていた。 だからこそ、激しい水流のように氾濫する「流れ」に取り残されてしまうことが恐ろしかった。 「……ん? おい、ジン」 その時、スパイクが一瞬怪訝な眼差しでジンを見た。 「なんだい、スパイク」 「お前とねねねだけか? スカーとガッシュの野郎はどうした」 「……っ!」 「それは、」 ピシリ、と。 コンクリートの壁がその言葉につられて軋んだような気がした。 壊すのは簡単。 だけど、新しいモノを生み出すのはとてつもない労力が必要だ。 湧き上がった朗らかなムードはあっという間に粉塵へと還った。 ねねねがギリッと奥歯を噛み締め、血が出そうなほど強く拳を握り締めていた。 飄々とした雰囲気を崩さなかったジンが一瞬で表情を暗くし、「立て板に水」を体現するような舌が言葉を探していた。 気が付くとゆたかの両手は、勝手に叫びを発してしまいそうになった唇へと押し当てられていた。 笑顔の花が、消えた。 悟ってしまった。 理解してしまった。 人は皆沈黙に取り込まれ、ビルの外から聞こえる唸るような機械の音だけがおしゃべりだった。 ジン達の動作だけで、苦悶の表情だけで―― もう、二人が永遠に帰って来ない人になってしまったという事実を、ゆたかは認識してしまった。 「そ、んな……なんでっ……なんでよっ! 皆で……帰るって、約束したのに!」 最初に口を開いたのは舞衣だった。 「馬鹿、泣くんじゃねぇよ!」 「でも、だって……」 「ガッシュも、スカーも……すげぇカッコよかったんだ。だから、泣かないで、泣かないで……くれっ……!」 ねねねに叱責された舞衣が肩を震わせた。橙の色鮮やかな髪の毛が寂しげに揺れる。 あまりに色々なことがあったせいで、舞衣の心はきっと糸が張り詰めたような状態になってしまっているのだろう。 過去を清算し、割り切ることが出来た今となっても感傷的な部分が非常に大きいという点は否定出来ない。 だが、そんな舞衣の仕草よりもよりゆたかの印象に残ったのは強い口調で二人の名前を呼んだねねねについてだった。 ……泣きたいのは、ねねね先生の方なんだ。 スカーも、ガッシュも、舞衣とゆたかにとってはつい先程顔を合わせたばかりの相手だ。 二日間にも及ぶ殺し合いの中でもほとんど縁はなかった訳だし、言葉を交わした経験も少ない。 だが、ねねねにとって二人は長い時間を一緒に過ごした気の置けない仲間だったはずだ。 ゆたか達よりもずっとずっと、悲しみが大きいことは簡単に分かる。 ゆたかよりも背の低い、金色の髪をした元気のいい男の子――ガッシュ・ベル。 顔に物凄い傷跡のある褐色の肌の大男――スカー。 一緒に居た時間は確かに少ない。 でも、ここまで生き残った〝仲間〟であるという感覚の糸はしっかりと結ばれていたのだと思う。 『一人も欠かさずに、絶対に生きて帰る!』と誰かが口にしたのはいつの事だっただろう。 気が付けば、ゆたかの大好きな人達は一人、また一人と彼女の前から消えて行った。 Dボゥイ、ニア、奈緒、かがみ、スカー、ガッシュ…… ――わたしには、何が出来るのだろう? 考えても、何も出て来ない。 戦うことも他の人を導くこともゆたかには出来ない。 とにかく、邪魔にならないように――って、本当にそれだけでいいのだろうか? もう、ゆたかは無力感に苛まれて涙を流したりはしない。 確かに自分自身の非力さには気が滅入るけれど、それで潰れてしまったりはしない。 少しは強くなれたのだ。ベソっ掻きで臆病な性格も少しはマシになった。 でも、やっぱり、何も出来ないのは……辛いのだ。哀しいのだ。苦しいのだ。 「うっ……」 漏れる、嗚咽。 皆の辛そうな顔を眺めているだけでゆたかも哀しくなってしまう。 「……ゆたかも……泣くなよ……あたしまで……悲しくなんだろ……っ」 ねねねが先ほどよりも、もっとキツそうな顔付きで言った。 でも、その言葉から伝わって来る「苦しさ」がゆたかを更に泣き虫にしてしまう。 わたしは、こんなにも涙脆い女の子だっただろうか。 ぼんやりと現実と理想の距離感がいまいち上手く掴めない頭でゆたかは思った。 「――チッ、あの傷野郎は死んだのか。俺の手でアイツには止めを刺してやりたかったんだがねぇ」 訃報を知らされてから、ずっと無言だったスパイクが憎々しげに呟いた。 「……おい……お前、何言ってんだよ」 顔面を蒼白に染めたねねねが拳をふるふると震わせながら尋ねた。 ゆたかも舞衣も、スパイクの辛辣な台詞に驚いてどちらも顔を上げた。 スパイクが冗談を言っているような口調でもムードでもなかったからだ。 「あん? 何ももクソもねぇ。 あの場は納得した〝振り〟をしたが、そもそも俺はアイツがリードマンを殺したことを許し――」 スパイクの言葉は最後まで紡がれることはなかった。 ゴッ、という大きくて鈍いがビルの中に木霊した。 平手、ですらなかった。 容赦遠慮のないねねねの右ストレートがスパイクの左頬に炸裂したのだ。 「なんで……アイツがどれだけ頑張ったか、分からないんだよっ!」 哀しみと自責の念で潰れそうな表情を浮かべていたねねねが怒気に満ちた眼でスパイクを睨みつける。 少しだけ赤く腫れたねねねの右手はずっと握り締められたままだった。 掌の皮が切れてしまうのではないかと思うほど、その拳は固さを増していく。 「……痛ぇ」 ぼそりと呟いたスパイクが口元を拭った。 そして、その緩慢な動作がねねねの更に逆鱗に触れたようだった。 「何で分からないんだよっ、アイツがどんな覚悟で……どんな想いで自分を犠牲にして……私達を守ってくれたのかっ! 謝れっ、謝れよっ!」 喚くようにねねねが仰け反ったスパイクの襟元を掴んでガクガクと揺さ振る。 相手と自分との身長差をまるで考えない突発的な動作だった。 一触即発とはきっとこういうことを言うのだ。 カッチリと纏まっていたはずの絆も壊れてしまう時は本当にすぐなのかもしれない。 作るのは大変。でも壊すのはとっても簡単なのだ。 「ジンさ――」 ゆたかは助けを求めるようにジンの名前を呼んだ。 彼はスーパーマンのような人だ。 気配り上手で、場の空気が読めて、皆が見落としてしまうようなことにも気付くことが出来る。 喧嘩の仲裁なんて、まさに彼の絶好の得意分野だろう。 「………………」 だが、ジンは腕を組み、静かな瞳で揉み合うスパイクとねねねの姿を眺めているだけだった。 「えっ……」 どうして何もしないの? だって、彼にはこの場を何とかする力があるはずなのに。 ゆたかは彼が何を考えているのかまるで分からなかった。 「……おい、ねねね」 散々頭を揺さ振られたスパイクが苦しげに呻いた。 口元には赤い液体。 どうやらねねねの一撃で口の中が切れていたらしい。 が、小さく口の片端を吊り上げると、消えてしまいそうな声で呟いた。 「元気、出たじゃねぇか」 「……は?」 間の抜けた、声が響いた。 スパイクのワイシャツを掴んでいた手が緩められる。 顔と顔が数センチほどの差がないほど接近していた二人の身体がパッと離れた。 「……にしても、グーはねぇだろグーは。普通、ここはパーだ。 女が手を上げる時は大体そんなもんだと相場が決まってるはずだ……ったく、なんでこうなるかねぇ」 ぶつくさと文句を言いながら乱れた襟元を隻腕で正し、スパイクが上着のポケットをゴソゴソとまさぐった。 が、目的の品は見つからなかったのだろう。 彼は不満そうに口元を「へ」の字に歪める。だが、 「スパイク」 「っと、と……」 「お探しの品は〝ソレ〟だろ?」 暴れるねねねを止めようともスパイクの暴言を戒めようともせずに静観を貫いていた男がいた。 ニィッと盛大な笑みを浮かべたジンが、何かをスパイクの胸元へと放り投げた。 そして、呆然としていたゆたかに向けて無言でウインク。 だがゆたかにはジンが何を言いたいのか、何となくだけど分かったような気がした。 ――何もしないのが最善、って場合もあるってこと。 「……はっ。ま、結局コイツが一番ってこった」 美味そうにスパイクがジンから受け取ったシガレットケースから葉巻を一本取り出し、ライターで火を点けた。 カチッという無機質な音と炎の燈るおぼろげな音が灰色の建物の中に響き渡った。 「スパイク……お前、まさか……」 「……何でもねぇよ。表じゃドモンの奴が必死に戦ってる……泣き喚くのはもうちょい後だ。 それに、よ。考えてもみろよ。 スカーの野郎が自分を犠牲にしたのはお前らに泣いて貰いたかったからじゃねぇ。お前らを生かしたかったからだ」 口から煙を吐き出しながら、スパイクが言った。 灰色で階段の中が一杯になる。ゆたかの鼻にも煙草のツンとした臭いが飛び込んできた。 普段なら顔をしかめてしまうはずなのに、今だけは何故かスパイクの気遣いが伝わってくるようであまり不快ではなかった。 罪滅ぼし、なのだろうか。 スパイクとスカーとねねね、そして焦点となっている人物。 彼らの関係をゆたかはよく知らない。 特にスカーという人に関する記憶は少ない。 無口で、大きくて、怖そうで……そんな印象だけが残っていた。 なんで、どうして、ねねね先生を守るためにスカーさんは犠牲になったんだろう? 居なくなってしまった人はそれ以上の言葉を紡ぐことは出来ない。 だから彼の真意は誰にも分からないはずだ。 でも、この時だけはスパイクの言った台詞が真実だったんじゃないか、そんな風にゆたかは思いたかった。 「そういえば、な」 「……何だよ」 「そっくりだったぜ、ねねね。キレたおっかねぇ顔付きなんて本当に瓜二つだ」 「は?」 再度咥えた葉巻を唇から離しつつ、スパイクが少しだけ遠い眼をした。 それは何かを懐かしむような郷愁に満ちた輝きだった。 「お前と、どっかのセンセーが、だよ」 燻らせた紫煙がコンクリートの匣の中でゆっくり空気に溶け込んでいった。 大きいはずのスパイクの背中が、泣いているように見えたのはゆたかの気のせいだったのだろうか。 誰よりも怒り、悲しみを露にしたかったのは彼だったのではないだろうか。 彼は、きっとゆたか以上に己の無力さに歯痒い思いをしているのではないだろうか。 ――わたしには、何が出来るだろう? もう一度、自分自身に問い掛けてみてもやっぱり答えは出なかった。 だけど、一つだけさっきとは違うことに気付いた。 きっと皆、悩んでいるんだ。だって、悩みのない人なんていないのだから。 誰も彼もが自分の居場所を見つけようと必死になっている。 何が正解で何が間違っているかなんて、全て終わってみなければ分からないんだ。 ――やれることを、小早川ゆたかが精一杯頑張れることをやろう。 そんな風に心へと誓うだけで、ゆたかは少しだけ自分が強くなれるような気がした。 ◇ 何ができるか何を成せるかどんな役割を担うべきか、そんなものカミナにとっては考えるに値しないものだった。 一顧だにする価値すらない。カミナにとって重要なことは分かりやすくもただ一つ。 自分が何をしたいか、それだけである。 本能の如く力強く刻み込まれた理念に突き動かされ、カミナは硝煙弾雨の中を駆け抜ける。 『どうした、動きが鈍くなっているぞ。ファイトの途中で気でも抜いたか』 『こちらの都合だ、気にするな。あまり一方的に攻めるばかりでは悪いと思ったのでな』 『ふ、面白いっ!』 「はぁ、はぁ……へ、全くでけぇ声でぎゃあぎゃあ暴れやがってよ」 降りかかる瓦礫にしかめっ面をして、耳を叩く騒音に対し毒づく。 初めは砂塵のような小さなものが主だった石くれにも無視できない大きさのものも混じりだし、戦場の中心部が近づいてきたことを教えていた。 肌に感じる熱はカミナが走り通しだったことだけが原因ではないだろう。 『ヴィラルさん今です!』 『ああ!うおおおおお!』 『ぐぅ!やるな、だがまだ!』 外部スピーカーから垂れ流される音を頼りに知ることしかできなかった激戦の様子が、この距離になると肉眼ではっきりと見える。 殴り合い、破壊し合っては再生を繰り返しまた殴り合うという狂気じみた戦いに、当然のことながらカミナのことなどまるで無視である。 そう、荒ぶる神の如く相争う二体の巨神にしてみればカミナなど居ないも同じ。 卑小な一人の人間に過ぎない男が血眼になって足を動かしたところで、できることは何もないのである。 東方不敗のような鍛えぬかれた武芸者が見ずともカミナの無力は明白。犬死には必定である。 仮にその道理に従わぬ者がいるとすればそれは次のいずれかであろう。 一つは豪傑。巨大兵器ともまともに渡り合う武勇を秘めし豪の者。 一つは狂人。危険を知りながらそれに魅了され自ら死地に飛び込む愚か者。 あるいは、もう一つ。 馬鹿。 「おうおうおうおうおうっ!!このカミナ様を差し置いて派手にやり合おうたぁ、いい度胸してんじゃねぇかっ!」 天の高きを知らずして天に挑まんとする身の程知らず。 ◇ 激震は唐突にやって来る。 「……な!?」 異変が起こったのは合流した五人が廃ビルを後にしようとした、その時だった。 彼らがいたのはビルを真っ直ぐと貫く螺旋状の階段だ。 エレベーターも中には備わっていたのだが、急に電力の供給がストップする可能性も考えられたため歩いて降りる途中だったのだ。 「……揺れてる?」 ビルが、揺れる? 若干結合の悪い単語の組み合わせに鴇羽舞衣は首を傾げた。 日本人である彼女にとって地震は慣れっこの災害であるが、ここで重要なのは他の要素に関する分析である。 つまり――他にこのような大規模な振動をもたらす要因としてどのようなモノが挙げられるか、ということ。 答えは一瞬で舞衣の脳裏に浮上した。 そしておそらく彼女よりも数秒早くスパイクやジン、ねねねは同じ結論に到達しているはずだ。 「きゃっ!」 「ゆたか、大丈夫!!?」 「は、はい……え、と……こ、これはいったい……?」 だから、唯一気付いていないのはこの子――小早川ゆたか――だけだった。 ゆたかは本来ならば、こんな「殺し合い」なんて舞台に呼ばれるべき人間ではない。 彼女の周りには物騒な能力も、命を懸けた戦いも、運命や宿命といったファンタジーめいた因縁も存在しないのだ。 「……っ! やべぇぞ、こりゃあ……! 急げ、早くこのビルから出るぞ!」 「スパイク駄目だ、足じゃあ間に合わないっ!」 駆け出そうとしたスパイクをジンが大声で呼び止めた。 そう、『階段を駆け下りていては間に合うかどうか分からない』のだ。 振動の原因はおそらく〝アレ〟である。 ならば、強烈な暴風がもうすぐ舞衣達を襲うだろう。そうなってからでは遅いのだ。 「それでもここで突っ立てるよかマシだ!」 「……そりゃそうだね。王ドロボウともあろうものが汗水垂らして身体を動かすことを忘れる所だったよ」 「舞衣、ゆたか、急げっ!」 スパイクの言葉を受けて、ジンとねねねも大股で階段を駆け下りて行く。 戸惑って足を止めてしまうよりも、随分上等な解決案だ。 「分かってますっ、行くわよゆたか!」 「う、うんっ!」 舞衣もゆたかの小さくて柔らかい手を絶対に離さないようにキュッと握り締めて走り出した。 この子だけは……私が守ってみせる。 強い決心と「Dボゥイ」という共通の相手に庇護を受けた縁が彼女達を結んでいた。 いや、今となってはそれだけではないのかもしれない。 ゆたかは小柄な身なりをしているが舞衣と同じ高校一年生だ。 舞衣がゆたかに覚えている感情を一言で表すのはとても難しい。 親愛や友情といった気恥ずかしい単語が大分近い位置にあるとは思うのだが一致する、という訳でもないように思える。 ……何なのだろう、いったい? 先ほどまでコンコンコンと音を鳴らしていた階段を足早に駆け下りる。 コッコッコッ、と革靴とコンクリートが奏でる音が後ろから舞衣に噛み付いて来そうだった。 「あっ――!」 あともう少しで出口――という時、後ろからゆたかの声が響いた。 そして同時に握り締めた掌に掛かる大きな力。これは……まさか! 思わず舞衣は後ろを振り返る。 「ゆたか!」 想像通り、ゆたかが階段に足を取られて転倒しそうになったようだった。 舞衣がしっかりと手を握り締めていたため、大事には至らなかったが大きく体勢を崩してしまったことは確かだ。 しゃがみ込んでしまったゆたかに舞衣は心配そうに声を掛ける。 「大丈夫、ゆたか!」 「す、すいませんっ、大丈夫です。急ぎましょう、舞衣さ――」 その時、二人を包み込んだのは何かが崩れる音だったのだろうか。 突如襲来した〝暴風〟がちっぽけなビルに突き刺さった。 白の瓦礫が方々へと飛び散り、中にいる人間を押し潰そうと迫る。 力の氾濫に生身の人間はあまりに無力で、立ち向かうことなど出来る訳もなかった。 コンクリートの雪崩が舞衣達の頭上に迫っていた。 世界は黒く染まり、言葉を発する隙間もなかった。 逃げ遅れた二人の少女に鉄の雨が無情な煌きを示した。 ◇ まさに狂気の沙汰と言う他なかった。天地鳴動の様相を呈する戦場にいきなりカウボーイ姿の男が割り込みいきなり威勢よく啖呵を切ったのだ。 「カ、カミナ!?一体何をやっているのですかあなたは!?」 驚嘆すべき馬鹿野郎の正体にいち早く気付いたのはグレンの操縦席内、依然シャマルの懐に抱かれたままのクロスミラージュだった。 仲間が次々と蹴散らされる地獄絵図に噛み締める歯も持たず、沈黙をせめてもの抵抗とするしかなかったクロスミラージュが事ここに至ってついに声を荒げる。 「カミナ、だと……な、馬鹿な!?」 グレンラガンのスピーカーから漏れ出た耳慣れぬ合成音声はドモンにもその男の存在に気付かせた。 モビルファイター独特の全方位表示のモニターの一部が四角く切り取られ、場違いに見栄を切る男をクローズアップする。 戦いに全く無関係な方向から突如入った横槍は練り上げられた達人の集中を僅かに乱した。 「ハダカザルめぇ……!なぁにをやっているゥ!!」 ヴィラルはその隙を好機と捉えるような男ではなかった。 むしろ技と技、力と力、意地と意地がぶつかり合い高まり合うこの大一番に水を差されたことへの怒りが勝り、叫びとなって表出する。 全く知らぬ顔ではないために、あの男が策も目算も持たずただ威勢だけによって割り込んできたことがヴィラルには分かる。それが余計に腹立たしい。 シャマルはと言えば、決死の戦いに割って入る無作法とそれをする男の思考を許容できず、言葉を失っていた。 それぞれの思考が混ざり合った帰結として、カミナの一声は地を割り天を裂く大戦をぴたりと静めるという結果をもたらした。 自分がどのように見られているかも知らず、カミナは巨大兵器の分厚い装甲越しに注がれる複数の視線に確かな手応えを両手に感じた。 ニヤリと口を歪ませる。 場の空気を一気にさらったことに気分を良くし、さらに己の存在を誇示しようと指を一本天へと掲げ。 『何をしにきたのですかあなたはっ!!いい加減にしてください!!』 叩きつけるように飛び込んできたクロスミラージュのがなり声に得意の口上を阻止された。 「なんでぇクロミラ!せっかく助けにきてやったってのに随分じゃねぇか!」 『考えなしに突っ込んできて助けにきたも何もありません!!あ、あなたという人は……馬鹿だとは思っていましたがまさかこれほどとは!!』 『クロミラだと……?あいつがあそこに居るのか……』 『コラっ!黙りなさいっ!』 『ぐぅぅぅ……!』 突然の乱入に困惑を示す声、自己主張を始めた合成音声を制御しようと逸る声、戦いの高揚を邪魔された怒りに震える声。 むせかえる程に張り詰められていた戦場の空気は完全に霧散し、代わりに訪れたのは茶番めいた混乱だった。 その元凶となった男にはもちろん自覚など、ない。 「へ、方法なんざ殴って奪う!これ以上に何がいるってんだよ!」 『しょ、正気ですかあなたは!本当にそんな程度の考えしか持たずにここまで来たのですか!』 東方不敗に言い放ったような信念がカミナには確かにあるのだが、言葉足らずに怒鳴るだけでは伝わるはずもない。 ただ軽挙妄動の産物と見られるのみである。 思い通りに行かぬ焦りの上に理屈で押してくるクロスミラージュの弁舌を突き付けられ、元来堪え性のないカミナは理不尽な怒りを覚え始めていた。 「正気も正気よ!このカミナ様がやるって言ってんだ!てめぇもグレン団の一員ならリーダーを信じてどしっとしてやがれぃ!」 『だからこそ、明らかな無謀を見過ごす訳には行きません!』 「無謀かどうかはまだわかんねぇだろうが!この先見てから判断しやがれ!」 『意味が分かりません!一歩間違えば即死ですよ!』 「んなもんどこに行ったって一緒だ!」 『そういう意味ではなく――!』 『いい加減にしろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』 侃々諤々、やいのやいの。子供のように真っ赤になって繰り広げられる口喧嘩を切り裂いたのは声と同じく鋭い歯を剥き出しにする獣人にして武人、ヴィラルだった。 「キサマは……!キサマは!自分が一体何をしたのか……わぁかっているのかあああああ!!」 「ヴィラルか?へ、見てろよ今度こそ……」 「分かってないなら言ってやる!キサマは、神聖な武人同士の戦いを土足で踏みにじったんだよぉ!」 尚も埒のない言葉を並べようとするカミナを遮り、グレンラガンの武者鎧を思わせる無骨な腕を突き付けてヴィラルがさらに吠えた。 腹の底からの憤怒をぶつけられ、さすがのカミナも言葉を途切れさす。 カミナにはとっさにヴィラルの怒りの原因を察することができなかった。それでも、その言葉には一蹴することのできない何かを感じた。 「武人……だぁ?何を言ってやがる」 自然、声からも力が抜ける。 それを吸いとるかのようにヴィラルの叫びは激しさを増して続けられた。 「俺はシャマルを愛している!そしてシャマルからもまた愛されている!だからこそ二人で生き残るためにこうして戦っているぅ!」 民衆を鼓舞するアジテーターのように、グレンラガンがアルティメットガンダムをその鋭いドリルで指し示す。 「この男もそうだ!散っていった仲間のため、まだ生きている友のため、そして故郷に残した愛する者のために立っている!」 口角泡を飛ばすヴィラルの拳に拠らぬ攻撃に、東方不敗にさえ反駁したカミナの口が重く縫い付けられてしまう。 「俺たちの道は決して並び立ち得ない!だからこそここで意地と誇りと信念の全てを懸けて拳を交わしているのだぁ!それをキサマときたら……!」 愛を知った獣人の心からの言葉に――気圧されている。 「自分のおもちゃをとられたのが悔しいから取り返しにきただと……」 ヴィラルの声が震えるのに合わせてグレンラガンが身を縮める。 攻撃準備にも見えるが、そうではない。 「ガキは……」 ヴィラルにとって背負うものを持たぬカミナなど、倒す価値すらないのだ。 「すっこんでいろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおオオオオオオオオオオオ!!」 グレンラガンは吠えた。あらん限りの、全身全霊の感情を込めて魂の底から吠えた。 「ぐぅ……!」 力を持たぬはずの音波が確かな圧力を以てカミナの肌をビリビリと刺激する。 ちくしょう。分からねぇ。ちくしょう。 クロスミラージュ、あるいは東方不敗相手にあれだけ良く動いた口がなぜこんなに重いのか。 カミナにとって考えるまでもなくそこにあった自らの思考が、分からなかった。 「……悪いがそれに関しては俺も同意見だ」 別方向から静かに続けられた声がカミナに追い討ちをかける。 ドモンカッシュの操るアルティメットガンダムもまた悲しみに彩られていた。 「そいつの言う通り、俺たちはこの戦いに一命を賭している。正々堂々、正面からな。ガンダム同士でこそないが、これは最早ガンダムファイトと何ら変わらん」 ヴィラルのような激しさこそないが、ドモンの言葉もまた同じようにカミナの胸を刺激する。 「そしてそれとは別にこのファイト自体に心踊るものがあったのもまた事実だ。それを邪魔された悲しみも同じく……な」 二人の男からくれられる視線がさっきとは比べ物にならないくらいに重く感じられた。 訳の分からない焦燥感に胸を焼かれ……いや、理由など本当はとっくに分かっている。 分からないなどと吠えるのは、カミナの本能がそれを認めるのを頑なに拒ぶから。 よりにもよって男の喧嘩に水を差すなどという大愚を犯したのだ。 グレン団、不撓不屈の鬼リーダー。 カミナともあろう者が。 『場所を変えるぞ。仕切り直しだ』 『……ああ、いいだろう』 『カミナ……』 『シャマル、そのうるさい板切れは黙らせておけ』 『ええ、ヴィラルさん』 『カミ……!』 カミナの存在を無視するかのように頭上で淡々と言葉が交わされる。 相棒であるクロスミラージュが何かに押し込まれるように言葉を絶っても、意気を挫かれたカミナにはどうすることもできない。 ズシンズシンという地響きが南へと移動し、やがて静寂が戻ってもカミナはその場を動かなかった。 握り締められた拳は、丸められた背中は一体何を語るのか。 悔恨か。恥辱か。諦念か。あるいはぶつけられた信念の重さに耐えきれずにここで潰れてしまうのか。 自らの矮小さを知らしめられ、飛び散った瓦礫と同じく無様に朽ちてしまうのだろうか。 「……たら」 いや。 答えはそのどれでもない。 一度の失敗では学ばぬからこそ、人はその者を馬鹿と呼ぶのだ。 「だったらよぉ……」 カミナはゆっくりと立ち上がる。 何故なら。 「見届けさせてもらおうじゃねぇか。武人同士の戦いってやつをよぉ!」 カミナもまた、折れることを知らない一人の男なのだから。 ◇ 「……ふん」 廃ビルに突き刺さったビャコウの十字槍に絶妙な手応えを感じ、チミルフは小さく嗤った。 「ニンゲン共よ……ヒトと獣人の力の差。そして、ガンメンと無力なヒトの差を思い知ったか?」 スパイク達が控えていた廃ビルを破壊したのは〝怒涛〟の二つ名を持つ烈将であるチミルフだった。 ヴィラルとシャマルの駆るグレンラガンの即時撤退勧告――を断られた彼は、己の方針を変更することを決意したのである。 つまり、ニンゲン狩りの再来である。 ヴィラル達も同様にこの舞台のニンゲンを殲滅することを目的として動いている。 アルティメットガンダムという強大な敵と拳を交えるグレンラガンを援護するべきかとも考えたが、こちらは却下した。 なぜなら、一対一の戦いにヴィラルが拘る理由がチミルフには痛いほど理解出来たからだ。 そして同時に、真っ向勝負の最中に撤退することを命じた自身に多少の恥じらいを覚えた。 彼は自分の部下だったかもしれない男に向けて「敵へと背を向ける」よう命令したのだ。 高い戦力を保持するアルティメットガンダムはチミルフ達の逃亡を認めはしないだろう。 が、天元突破を果たしたグレンラガンが真の力を発揮すれば、あのような木偶の坊に敗北するとは考え難い。 ならばこちらはヴィラルに任せ、戦いに横槍を入れる可能性のある他のニンゲンを殲滅するのが適当ではないか。 そう、チミルフは考えたのだった。 そして、結果は上々。 複数のニンゲンの反応を受信した廃ビルへビャコウで一撃を見舞った。 眼下は粉塵によって現在の状態が確認出来ないが、少なくとも数人は葬れた可能性が高い。 後は逃げ果せた者を殲滅すればいい。 「む――?」 チミルフの片眉がピクリと動作した。 瓦礫の山と化したはずの廃ビルの深部から巨大な熱源反応をビャコウのセンサーが感じ取ったのである。 崩れた建物から火災が発生するのは当たり前の状態だ。 チミルフも最初はそれを見逃す所だった。しかし、 「な……に……? これはっ……!」 油断か、慢心か。もしくはそのどちらとも違う理由か。 もはや、それは単純な爆発や火事などが示す熱量では言い表せないレベルまで増加していた。 明らかな事態だ。 通常では考えられない異変――いや、参加者の中に一人だけ強大な〝炎〟を操る能力者がいたという事実をチミルフは思い出した。 まるで太陽だった。 煌々と輝く炎の塊がすぐ側に控えているかのような膨大な熱が爆発する。 「くっ――!?」 操縦桿を握り締め、すぐさま十字槍を廃ビルから引き抜く。 そして後方への急速な退避運動――ビャコウを戦域から離脱させるのにチミルフは一瞬遅れを取ってしまった。 『自身の上方』に覆い被さっていたであろうコンクリート片を一瞬で融解させながら、 強烈なビーム状の熱波が廃ビルの跡地からビャコウに向けて発射されたのだ。 「グウゥッ――!!」 咄嗟に機体を仰け反らせていなければ確実に『もっていかれて』いただろう。 紅蓮の輝きに満ちた帯状の炎がビャコウの右肩の鎧部分を一瞬で灰塵へと変えた。 密度の高い圧倒的過ぎる火炎だ。 おそらく、温度は軽く数千度――カスタムガンメンの強化装甲といえど直撃を受ければひとたまりもない。 「……なるほど、相手にとって不足はない……ッ!」 チミルフはコンソールを操作し、外部カメラを瓦礫から不死鳥のように現れた「炎の龍」へと合わせた。 同時に、テッペリンで頭に叩き込んできた参加者に関する情報を自身の頭の中から引き出す。 現れたのは森羅万象を司る烈火の化身。 燃えさかる炎の翼は、蝶の鱗片のように火の粉を撒き散らしながら空を翔ける。 白亜の外皮はゴツゴツとした隆起を示し、色鮮やかな巨大な宝石のような部分さえ散見出来る。 金色の輝きを放つカギ爪は武力の象徴として闇夜の中でも煌々と瞬き、 頭部に突き刺さった剣――クサナギ――は紅の柄と月色の刀身でもって、荒ぶる王の口蓋を縦に貫いている。 古事記では〝火之迦具土神(ひのかぐつちのかみ)〟として崇められる神の名を冠す巨大獣。 最強の力を持つ劫火のチャイルド、その名は――カグツチ。 そして、龍の頭部には二人の少女の姿が。 太陽と桜花。 鮮やかな彼女達の色彩はチミルフの脳裏にパッとそんなイメージの花を咲かせた。 龍の頭の上で腕を組む少女が黄昏色のセミロングヘアーを風に棚引かせつつ、口元に不適な笑みを浮かべた。 二本の足は硬角質の皮膚を踏み締め、首元に巻き付けた赤いマフラーが生き物のように空を舞う。 そして、彼女の首には桃色の髪の少女が頬を赤らめ抱き付いていた。 猛き皇龍の王を使役する龍の巫女。 小さな身体に大いなる可能性を秘めた運命の少女。 「鴇羽……舞衣ッ……小早川ゆたか……!」 己の前に立ちはだかる相手の名を噛み締めるようにチミルフは呟いた。 時系列順に読む Back HAPPY END(5) Next HAPPY END(7) 投下順に読む Back HAPPY END(5) Next HAPPY END(7) 285 HAPPY END(5) ヴィラル 285 HAPPY END(7) 285 HAPPY END(5) シャマル 285 HAPPY END(7) 285 HAPPY END(5) スカー(傷の男) 285 HAPPY END(7) 285 HAPPY END(5) ガッシュ・ベル 285 HAPPY END(7) 285 HAPPY END(5) 菫川ねねね 285 HAPPY END(7) 285 HAPPY END(5) スパイク・スピーゲル 285 HAPPY END(7) 285 HAPPY END(5) 鴇羽舞衣 285 HAPPY END(7) 285 HAPPY END(5) 小早川ゆたか 285 HAPPY END(7) 285 HAPPY END(5) ジン 285 HAPPY END(7) 285 HAPPY END(5) ギルガメッシュ 285 HAPPY END(7) 285 HAPPY END(5) カミナ 285 HAPPY END(7) 285 HAPPY END(5) ドモン・カッシュ 285 HAPPY END(7) 285 HAPPY END(5) 東方不敗 285 HAPPY END(7) 285 HAPPY END(5) チミルフ 285 HAPPY END(7) 285 HAPPY END(5) 不動のグアーム 285 HAPPY END(7)
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HAPPY END(12)◆ANI2to4ndE ◇ 「……っ…………ヴィ………………」 何を残し、何を為し、何のために生きるのだろう。 何を想い、何を護り、何を愛せばいいのだろう。 「ヴィ……ラ…………」 何と出会い、何と語らい、何を目指せばいいのだろう。 何と過ごし、何と触れ合い、何を感じればいいのだろう。 「ヴィ……ラ…………っ……」 私がここにいる理由。 私がここに在る意味。 私がここに呼ばれた運命。 何もかもを受諾するのに、私は少しだけ"初心"だったのかもしれない。 全ての始まりは些細な一言だった。 そう、引き金は言葉。でもソレは小さく背中を押す見えざる手でしかない。 鉄と血の臭いに溢れた世界を私に押し付けるのはいつだって私自身の意志だ。 「ヴィ…………ラ………………」 私が決めた。 何もかも、そうするべきだと私が思ったから始めたことだ。 そして、私がやり通さなければならないことだ。 心の奥にある大切な人の悲しむ顔が見たくないから。 大好きな人達が冷たくなっていく姿なんて見たくないから。 だから、私がやるんだ。 烈火の将はいない。 鉄槌の騎士はいない。 盾の守護獣は存在しないのだ。 私が、私が――――"はやてちゃん"を守るんだ。 「……ヴィ……ラ……………………さ…………」 守る。 私しかこの場にはいない、私がはやてちゃんを守らなければならない。 「ヴィラ…………ル…………ん……」 はやてちゃんがいてくれたから、私達は本当に楽しい時間を過ごすことが出来た。 戦うだけじゃない他の生き方との出会い。 これこそが"シャマル"という存在が本当の意味で命を受けた瞬間だったのかもしれない。 そもそも、ヴォルケンリッターは闇の書の守護プログラムに過ぎなかった。 でもはやてちゃんが求めたモノは"守護騎士"という役割なんかではなくて、"家族"としての平穏。 求められたモノは血の流れない平和な時間だった。 憎しみも怒りも哀しみもない世界。ただ笑い合って、他愛のない話で盛り上がる……そんな平凡な関係だった。 それは、刺激や真新しい経験とは縁のない日常だったのかもしれない。 少し時間が経てば忘れてしまうような出来事だったのかもしれない。 だけど、そんな記憶のアルバムに写真としては残らないような生活こそが、私達には煌びやかな宝石のように見えた。 暖かい愛情。流れるなだらかで心を落ち着かせてくれる空気。 何もかもが愛おしくて壊れてしまうのが怖かった。 ずっと揺りかごに揺られるような時間が続けばいいとさえ思った。 はやてちゃんにシグナムとヴィータとザフィーラと、そして私。 五人でいられる時間は、何よりも尊いモノだった。 「……ヴィ…………ル…………さ…………ん…………」 でも、 じゃあ、 どうして、だろう。 「…………ラル…………さ…………ん……」 私は、私が分からない。 ねぇ、どうして? どうして、どうして、私は…………こんな。 何度も、何度も、何度も―― 「ヴィラル…………さ……ん………………」 はやてちゃん、ではない――違う人の名前を呼んでいるのだろう? ◇ 「はぁっ…………はぁっ…………」 ゆっくりと、身体を引き摺りながら私は静寂の中を歩いていた。 終わった、のだろうか。 全身の感覚があやふやだった。そして、あべこべだった。 本当に、おかしなものだ。 何も音が聞こえない。沈黙の世界に包み込まれてしまったみたいだ。 赤い火花を散らしながら背後で燃える背の高い樹木。 空には瞬くような星の海が広がり、見下ろす月は白銀にぬらりと光った。 両脚を引き摺るようにして歩いている私。 でも、足元の砂と靴とが擦れてもそこに音はない。全くの無音だった。 「……行か…………なくちゃ……」 砕かれたコンクリートに足を取られないように、ゆっくりと私は足を進める。 感覚的に、自分の身体に何が起こったのかはすぐに分かった。 きっと、耳がダメになってしまったのだ。 でも自分が何を言っているのかは何となく分かる。 口の中に転がした単語としてならば、耳ではなく頭が理解出来るからだ。 無意識的に手が耳へと伸びてしまう。 ふとしたさり気ない動作。ただその存在を確かめるだけの意味のない動きだ。 「あ、れ……」 だが、動かそうとした右腕は――まるで微動だにしなかった。 不思議に思いふっと視線を送る。 「ぁ……」 そこにあったのは、ぷらん、と曲がり妙な形状になった私の腕だった。 まるで出来損ないの人形だ。 操る糸が切れて、関節と骨組みとが絡まった粗悪な作り物みたい。 「ぅ……で……?」 右の橈骨と尺骨が、完全に圧し折れていた。 折れた場所は関節の少し下。腕が二箇所、曲がるのだ。 ヒモで縛ったソーセージのように、肉と肉とが独立して在るみたいに見えた。 川を挟み、中央で合体する橋梁のように骨が「ハ」の字になっている。 叩き割った角材のように薄いプレートのようにさえ見える骨が鋭さを誇示する。 ギザギザの白。ピンクの線。黄ばんだ白身。 そこには、赤い微細な肉と管のような神経が沢山へばり付いていた。 「は…………っ…………」 もちろん指は動かせない。 吹き出した血で服もベッタリと汚れていた。 不思議と、痛みはなかった。だから気付かなかったのだ。 いつの間にか、私は私自身に対する関心がゴッソリと削ぎ取ったようになくなってしまっていた。 大切なのは、今にも潰れてしまいそうな私の心を支えてくれる相手のことだけ。最愛の人の存在だけ。 私自身のことなんてどうだっていいのだ。 「う、で…………わた、しの。あ……は……ぅ……あ……」 この時、ようやく私はいつの間にか自身のバリアジャケットが解除されていることを悟った。 魔力がなければバリアジャケットを維持することは出来ない。 そうだ。私はすべてを出し切ってもう満身創痍だ。残りカスだってないのは当たり前かもしれない。 だけど、 「ヴィラ……ル……さんのところ……へ……」 ――足だけは前へと向かうのだ。 まるで何かを求めるように。 夢遊病者のように。幽鬼の足取りで。 足りない何かを埋め合わせするためなのだろうか。 まるで消えてしまったツガイの相方を探して、飛び回る孤独な鳥だ。 二つで一つ。広くなった止まり木のスペースを埋めてくれる相手を待つことが出来ない。 千切れた片翼だけじゃ絶対に飛べないと端から決め付けてしまっている。 「……っ……ぁ……!」 足元のアスファルトの凹みに足を取られ、私は転びそうになった。 前のめりに蹴躓く私。 思わず前方に腕を差し出す。だが、ソレはもはや支えとしては機能しない"右"だ。 染み付いた感覚は抜けない。 腕がなくなってしまっても当然のように、頭はソレに頼ろうとする。 慣れ切ったモノに縋りついてしまう。 強い衝撃が私の身体を襲った。 「ぐっ…………」 受身を取ることも出来ずに、したたかに下顎を打ち付けた。 擦りむいて剥き出しになった肌がじんわりと血が噴き出す熱い感覚に悲鳴を上げる。 それに当然地面は平らなどではない。 砂利、湿った土、砕けたアスファルト、飛び散ったガラスの破片……危険なモノでいっぱいだ。 「っ…………」 腹這いの体勢で思いっきり、地面に私は倒れ込んでしまった。 強打した顔の下半分がジンジンと痛む。 "支え"になれず、ただ無様に地面を叩くことしか出来なかった左の掌からも血が滲んでいるようだ。 夜露に濡れて少しだけ湿った土肌の感触が頬を汚した。 伝わってくる冷たさは心の中にまで染み込んでいくようだった。 身動ぎする私だが、片手を失ったせいか上手く立ち上がることが出来ない。 今まで考えたこともなかった。かたっぽだけで身体のバランスを取ることはなんて難しかったのだろう。 「うっ、あぅっ……ぁ……」 足掻けば足掻くほど、大地の底を這い回る深淵に今すぐにでも食べられてしまうかのような恐怖に背筋が凍った。 隻腕で握り締めようとしても、掴めるモノはぬかるんだ泥の塊だけ。 弱音と嘆き、そして呻きのために開かれた口蓋へ、杯の水のように砂利や汚泥が流れ込んだ。 当たり前だ。顔を地面に臥せっているのに、口を開けたりするから。 私は舌先に触れた苦い刺激に直接脳を揺さぶられたような衝撃を受けた。 しかも、一緒に小さな蟲を飲み込んでしまったらしい。 口の中で数ミリの物体が幾つも蠢いているおぞましい触覚が、本来味覚を司るべき感覚器から伝わってくる。 「や……ぐ……ゴッ……ホ…ッ……! ゴホッ……ゴホッ……!」 サァッと全身を寒気が走り抜けた。 すぐさま泥や蟲を大きな咳と共に吐き出す。 が、口の中を濯ぎもせずに、この苦味がなくなる訳がなかった。 「グ……ガ……ッ……ゴッ……! っ……ぁ……ゴホッ……!」 そして、その苦味を取り払うために。 「ッ……ぁ……ゴホッ!」 結核患者のように、 「ゴッ……!」 何度も、 「ガハ……ッ」 何度も、 「ぅぁ……っ……ガァッ……!」 何度も――私は咳をした。 「はぁ……っ! はぁ……っ!」 強烈な衝撃に喉の奥がヒリヒリと痛んだ。 あまりに執拗に喉を震わせたためか、肺の辺りにまで妙な違和感を覚える。 涙も溢れてくる。既にまともな機能から大分離れていた眼球が更なる液体に侵される。 「っぁ……い……かなくちゃ」 それでも、私は地面に左手を付き、グッと力を入れた。 ここで立ち止まる訳にはいかないのだ。 ヴィラルさんは絶対に生きている。そうだ、私達はまだ負けていない。 グレンラガンでは足りない。まだだ、まだ力が足りない。 私達は絶対に二人で生きて帰ると誓ったのだから。 だって、ここで折れてしまったら。 敗北を認めてしまったら。前に進むことを諦めてしまったら…… 「はぁっ…………はぁっ……!」 はやてちゃんを――仲間を裏切った醜い私自身と向き合わなければならないから。 ヴィラルさんを愛する気持ちは確かなものだ。 うん、そう。私は『はやてちゃんではなく、ヴィラルさんを選んだ』のだ。 その時、思考がぐにゃりと歪んだ。 ――"右"腕がなくなってしまったとしても、私には"左"がある。 そして、訪れる転換。 ――"×××"がなくなってしまったとしても、私には"×××"がある。 「ヴィ…………ラル……っ……さ…………」 ――"はやてちゃん"が死んでしまっても、私には"ヴィラルさん"がいる。 「…………い……や……っ…………」 私は守護騎士としての役割を放棄して、ヴィラルさんと歩む道を選んだ。 そして、その気持ちを私は"愛"と呼んだのだ。 愛、すべてを包み込む優しい感情をそこに求めた。 弱い私は縋りついていただけだった。 『私にしか出来ないから』 そう呟いた口はどこへ行ってしまったのだろう。 心に思い浮かべた時は気が付けば真っ白な灰になってしまっている。 吐き出した言葉は、今、私の身体を焼き尽くす炎の赤へと姿を変えた。 胸に抱いた理想と想いは、もはや胸を締め付ける錆付いた鎖。 「ヴィラ……ル……さん……はやて、ちゃん……わた、私は……」 握り締めた拳を振るう相手は誰? 身を呈して護るべきは誰の命? この心を捧げるのはいったい誰? 記憶の憧憬の中で燃えていくセピア色の写真が花吹雪を作っていた。 色あせたその四角形の中には私の"全て"が息衝いてた。 うつ伏せだった身体を、仰向けに倒す。 私の身体と同じくらいボロボロになったビルの群れを切り取る夜の闇が見えた。 ここは、どこだろう。 私は、どうしてこんな場所にいるのだろう……どうでもいいか。 スッと――――眼を細める。 霞む景色は白い靄だ。 そこには満開の星空が広がっていたはずなのに、今となっては真冬の雪原に佇んでいるみたいだ。 身体が芯から冷たくて、末端から腐り落ちていきそうで。 ポタリ、ポタリ、と。 緑葉を伝う雨露の雫のように、指が一本一本枯れてしまいそうで。 肩を抱き、奥歯を鳴らしても何もかもがそこで終わってしまう。 ただひたすら震え続ける私。 冷え切った身体を暖めてくれる存在はどこにもいない。 ふわふわの毛布も、暖かいココアも、緋色に燃える暖炉も、何もない。 マッチの篝火の向こうにクリスマスの幻影を見たみすぼらしい少女。 死の瞬間に迎えに来た天使に一握の希望を見据えた少年。 お伽話の出来事に、冷たくなって行く自分自身を重ねる。 降り注ぐ幻想の夢物語は流れ星のように煌びやかな混沌をもたらすだけ。 ゆっくりと、だけど、確実に。 私は堕ちていく。 私は枯れていく。 私は、死んでいく。 「わら、わ……なきゃ……わらって……いない、と」 妄想、する。 てのひらに握り締めた過去を。 てのひらで転がる現在を。 愛する人と、てのひらを重ね合わせる未来を。 きっとソレは、楽しくて思わず笑い出してしまうような瞬間なのだろう。 誰もが皆笑顔で。 美味しい料理を囲んで、暖かい部屋の中でゆったりとした時間を過ごすのだ。 そこには憎しみも悲しみも争いもない。 誰も苦しんだり、涙を流すこともない――殺し合うこともない――そんな理想の世界だ。 「あは……っ、はははははは……っ……あは……はははははっ」 空想でも、妄想でも、ソレが今だけ続くのならば、きっと私は幸せだ。 すぐに消えてしまう妄想で構わない。 永遠の灰色の中で死を待つくらいなら、一瞬の虹色の中に溶けてしまいたい。 「ね……? ヴィラ……ル、さんも……そう、思う……わよね?」 結ぶ手はなく、夜の風は容赦なく壊れかけた身体に突き刺さる。 迷い込んだコンクリートの檻の中で、脈を打っているのは私の身体だけだった。 温もりが欲しかった。 抱き締めてくれる厚い胸板が、 頭を撫でてくれる優しい指先が、 背中合わせに感じる心臓の鼓動が、 ここには、ない―――― 「…………………………や、だ」 ない。 ここには、暖かさは、ない。 何もない。 冷たい空の下、私は一人。 真っ暗なセカイの中で血まみれで、泥まみれで、這い蹲っている。 惨めだ。私は何をしているのだろう。 だって、このままじゃ私は………………! 「……………………い…………や、」 ここには、私達が目指した「明日」はない。 「どう、して…………きて、くれないの、ヴィラル…………さん」 矛盾、している。 だって、私がヴィラルさんを遠くにやってしまったのだ。 負けないために。私達の願いを叶えるために、そうするしかなかったのだから。 いや……でも、違うんだ。 私が思っているのはきっと、多分そうじゃない。 もっと単純で分かりやすい答えが、願いが転がっているはずで。 「ねぇ、どう、して…………? どうして、なんですか、ヴィラルさん……」 縋るように吐き出す言葉は誰にも届かない。 視界に映る真っ白な靄を少しだけ濃くしてあっという間に消えてしまう。 私の血で濡れた衣服が気持ちが悪かった。 グッショリと湿った布地が身体に纏わりつく。吹き荒む風が体温を奪っていく。 「たす、け……助けて……ください……私は…………まだ……生きて、いる……んですから…………」 私は、願っていた。信じていた。 ヴィラルさんは私を助けてくれる。ヴィラルさんは私を見てくれる。ヴィラルさんは私を見捨てない。 何があろうとヴィラルさんは駆けつけてくれる。 私を包み込んでくれる。 私に温もりをくれる。 ――ヴィラルさんは、私を裏切らない。絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に。 「来て…………くれますよね、ヴィラル……さん……ヴィラル……さん、ヴィラルさん……」 それは幸せな愛ではなかったのかもしれない。 はやてちゃん達のことを忘れ去ることも出来なかった。 何もかもがきっと中途半端なままで。 愛に生きることも、死ぬことも出来なくて。 それは、迷いと戸惑いに満ちた愛。 それは、挫折という名の茨に囲まれた愛。 何もないカラッポの私には、もうヴィラルさんしか頼れるモノがなかった。 だから、呼ぶのだ。 ひたすら愛しい人の名前を。 「やだ……死にたく……ぅ……ない。こわ、い……やだ、たすけて……」 二の腕から先が折れ木のようになっている右手を空へ。 ぷらん、と揺れた私の手だったモノが赤い血液を撒き散らした。 「ひっ……! う……で…………痛い、痛い……いた…………ぁ……あアあぁあああアアああっ!」 その時、じわじわと痛みが右肩から這い上がってきたのだ。 麻痺していた感覚が復活したのだろうか。 ミッシングリンクの再度の接続。それは私がヒトとして正常な形に戻りつつある証拠なのかもしれない。 だけど、私は、 「ひぃっあぁっ……う……ぁ……が……ああぁあぁぁぁ!」 そんな覚醒は望んでいなかった。 私がまだ心を保っていられたのは、今まで「痛覚」が完全に麻痺していたからなのだ。 腕が引き千切れてまともな思考や理性なんて維持出来る訳がない。 繕ったパッチワークの精神なんて――簡単に吹き飛んでしまう。 「痛い痛い痛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!! うひっぃあぁああアあ……し…………は、」 白い霧のような世界に電撃が走った。 私は背中を陸に打ち上げられた魚のように仰け反らせる。 口を思い切り開いて、出るはずのなかった声が壊れたスピーカーのようなノイズとなって空気を震わす。 暴れれば暴れるほど全身を貫く感覚はその勢いを増していく。 「ひっ……ぃ……は……ふひゃ……ヵ……ぁ……ヴィラ、ルさ……ひぅ……たすけ……っ――」 辛い。 痛い。 いやだ。 いやだ。 生き汚い醜悪な感情が噴出した。 まるでヘドロのような腐臭にまみれた裸の想いだ。 精神病棟で身体をベッドに縛り付けられているクランケのように、私は血だらけの腕を振り回した。 「死にたく、な…………い……っぁああぁアア゛ア゛ア゛ア゛!! あぎっ………ひぐっ……ぉ……ぎゃアァあっ!」 振り回していた『腕だったモノ』が、私の顔面に激突した。 最初にその変化を感じ取ったのは口蓋の中だった。 「ぁっぶぃ……いぃがっ――!」 あまりの嫌悪感に思わず叫び声を上げた。 進入する、指。血塗れの指。五本の肉と骨と皮の固まりが口の中を這い回るような感覚を覚えた。 舌先が血だらけの指に触れる。鉄の味、ゾワゾワとした感覚が背筋を駆け上る。 粘膜と触れ合うゴツゴツとした感触。 ツルリ、と唾液に濡れて滑る爪。 唇から腕が生えているような異様で間抜けな光景。 思考はただ一つの言葉に占領される―― 指指指指指指指指指指指指指指指指指指指指指指指指指指指指指指指指指指指指指指。 ゆびゆびゆびゆびゆびゆびゆびゆびゆびゆびゆびゆびゆびゆびゆびゆびゆびゆびゆび。 「あ、が……づぁ……ぅ……ん!」 私は堪らず更に身体を捩った。 歯と唇に引っ掛かるおぞましい物体をなんとか引き離そうと左手でソレを掴む。 「ひ、あっ、ひ――」 すると、ブチッ!と何かが引き裂かれる音が響いた。 右腕が軽くなった。左手にズッシリとした重量が掛かる。 私は、理解した。 完全に肘から先の消失した右腕。吹き出す血液とブツブツとした隆起の脂質。 どす黒く変色した肉と折れ木のような骨。 私の肘から先が完全に『私の身体から離れて』しまったのは。 「うぃぁあっが……っぶぇええげぁっ!」 それは最後の一押しだった。 腕と腕とを繋いでいた皮膚が衝撃に耐え切れず破れてしまったのだ。 完全な身体からの切断、それは本当の意味で右腕が「私のモノ」ではなくなったことを意味していた。 口内から指を、手を吐き出す。 血と私の残骸を頬張り、皮膚を舐め、肉を味わい、骨を噛み砕く――とはいかない。 すぐさま左手でソレを掴み、どこかへと放り投げる。 「ひゃあああっ……はははは、はははははははは! は、は、はは…………」 呻きと嘆き、叫びの次に飛び出したのは笑い声だった。 どうして自分がこんな気持ちになっているのかまるで分からなかった。 面白い。 面白い。 あはははははははははははははははははははははははははは。 ははははははははははははははははははははは。 はははははははははははははは。 はは…………! 「……ぃ……ひぃぁっ……も゛う”…………い…………や……痛い…………死に、たい…………ごろ…………じて……ぇ………」 ――私が笑ったことには理由がある。 意外と心という奴は頑丈だ。 簡単に壊れたりなんてしない。 どんなに辛い目にあったとしても、ヒトがヒトであることを辞めさせてくれない。 だから、偽りの精神異常者へと転身することを最後の理性が決して許さない。 怖い。痛い。辛い。苦しい――逢いたい。 沢山の感情の塊の存在が、真の崩壊へと至る道を閉ざしてしまう。 「ぢが…………う…………だ……ダメ…………やっぱり、やっばり…………じにだく…………な……ぃ」 そして、すぐさま生への懇願は死への渇望へと変わった。 鬱と躁状態が交互に訪れる。 ああ、そういうことか。 私は死ぬのも生きるのも怖いのだ。痛いのは嫌なんだ。でも死にたくはないんだ。 きっと、またすぐ変わってしまうのだろう。 私はこのままここで、死にたがりと生きたがりを繰り返すのかもしれない。 死ぬまで、ずっと。 痛みと苦しみを味わいながら、だ。 そして、無様を晒し続ける。 壊れることも出来ないまま。 まともなままで。 ボロボロの身体と意識を引き摺りながら死と生の予感に殺されるのだ。 「ヴィ…………ラル、ざ…………ん……はや゛でぢゃ…………ん……」 誰もいない。 私だけが一人で大騒ぎをして、暴れて、そして助けを求めていた。 虚空と冷たい風だけが夜を揺らす。 だけど、誰も振り向いてはくれない。 はやてちゃんも、ヴォルケンリッターの皆も、機動六課の皆も、私を見てはくれない。 片方だけになった手を振り回す。 てのひらに触れた夜の風が冷たかった。 握り締める相手のいない左手が邪魔だった。 ああ、むしろこの手もなくなってしまえばいいのに。 だって、コレは必要ない。 掴むモノはないのだ。手が手の役割をしないのなら、存在する意味もない。 そうだ。 いらないものなら、切り捨てればいい。 そうすれば裏切られることもない。 愛した人全てから見放され廃棄された私のように。 つまらない反逆に心を痛めるくらいなら初めから繋がりなんてない方がいい。 裏切ることも、裏切られることにも耐えられない。 そんな関係なんてなくなってしまうのが一番いいんだ。 そうだ。消えろ。潰れろ。なくなれ。 だから、こんな腕なんて、 壊されて、 千切れて、 圧し折れて、 切り裂かれて、 捻じ切られて、 叩き潰されて、 削ぎ落とされて、 ――グシャグシャに、なってしまえばいいのに。 「あ、ひゃ…………?」 その時、ゴッ、と頭上から大きな音が響いた。 ◇ 「くっ……!」 鉄骨の雨が凄まじい轟音と共に地面を揺らした。 夜に赤色の液体が滲んでいく光景が見えるようだった。 クロスミラージュは視界の先、シャマルの消えた廃ビルの密集地帯が崩落していく音を聞いていた。 助かる訳がない。 半ば、そう結論付けざるを得なかった。 彼はシャマルに抱えられ、先ほどまでグレンへ共に搭乗していた。 そして、ドモン・カッシュとカミナとの死闘に敗れたシャマルは何を思ったのか、ラガンを遥か遠くへと放り投げた。 おそらく突発的な行動だったのだろう。 少なくともそこに理性的な思考が存在したとは考え難い。 妄執か、倒錯的な献身か。上手く「愛」を理解出来ないその理由はクロスミラージュには分からなかった。 「ミス・シャマル。あなたという人は…………」 シャマルも即死してもおかしくないような重傷を負っていた。 圧し折れ、千切れ飛んだ右腕などその最たる例だ。 何もしなくても出血多量で死亡していたであろう傷。ショック死しなかったことが奇跡的なぐらいだ。 だが、彼女はグレンのコクピットから這い出し、夜の中へと死に体を晒した。 彼女は壊れてしまったのだろうか。 大声で笑い、そして叫ぶ声がクロスミラージュのいる場所にまで響いてきた。 (でも、それは…………ある意味幸せだったのかもしれません) 精神に破綻を来たしたのならば、それは逆に良かったのかもしれないと彼は思った。 激痛の中金切り声を上げて泣き叫びながら死ぬよりも、完全にヒトでなくなった方が苦しみは少なくて済む、という考えもあるのだ。 まともなまま全ての痛みを受け止めることは、きっと何よりも辛い結末だ。 「本当に、本当に…………大バカです」 太陽の堕ちた世界、シャマルは最後に何を思ったのか。 彼には想像も付かなかった。まさか、彼女がこのような結末を迎えるとは夢にも思わなかった。 舞台は刻一刻と終焉に向かいつつある。 失われた楽園、それは夢の終わり。 冷たい夜のてのひらに血の赤が熱をもたらす。 そして、蝋燭の灯りのようだった彼女の魔力が、今、完全に世界からその姿を消した。 ――――冷たい夜が訪れ、掌の太陽は死の地平へと堕ちる。 時系列順に読む Back HAPPY END(11) Next HAPPY END(13) 投下順に読む Back HAPPY END(11) Next HAPPY END(13) 285 HAPPY END(11) ヴィラル 285 HAPPY END(13) 285 HAPPY END(11) シャマル 285 HAPPY END(13) 285 HAPPY END(11) スカー(傷の男) 285 HAPPY END(13) 285 HAPPY END(11) ガッシュ・ベル 285 HAPPY END(13) 285 HAPPY END(11) 菫川ねねね 285 HAPPY END(13) 285 HAPPY END(11) スパイク・スピーゲル 285 HAPPY END(13) 285 HAPPY END(11) 鴇羽舞衣 285 HAPPY END(13) 285 HAPPY END(11) 小早川ゆたか 285 HAPPY END(13) 285 HAPPY END(11) ジン 285 HAPPY END(13) 285 HAPPY END(11) ギルガメッシュ 285 HAPPY END(13) 285 HAPPY END(11) カミナ 285 HAPPY END(13) 285 HAPPY END(11) ドモン・カッシュ 285 HAPPY END(13) 285 HAPPY END(11) 東方不敗 285 HAPPY END(13) 285 HAPPY END(11) ニコラス・D・ウルフウッド 285 HAPPY END(13) 285 HAPPY END(11) ルルーシュ・ランペルージ 285 HAPPY END(13) 285 HAPPY END(11) チミルフ 285 HAPPY END(13) 285 HAPPY END(11) 不動のグアーム 285 HAPPY END(13) 285 HAPPY END(11) 流麗のアディーネ 285 HAPPY END(13) 285 HAPPY END(11) 神速のシトマンドラ 285 HAPPY END(13)
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HAPPY END(14)◆ANI2to4ndE ◇ 月が出ていた。 地上では黒い太陽が閃光と爆音を轟かせ大爆発を巻き起こしていた。 焔を撒き散らしながら、大怪球が崩れ落ちながら炎上する。 それを合図として、その異変は始まった。 それは爆風に押し広げられるようにジワジワと広がっていった。 それに触れた街の灯が次々と消えて行き、水面に広がる波紋のように暗闇が広がってゆく。 それは満ちる波のように闇を押し広げる透明な円。 それはアンチシズマフィールド。 それはバシュタール現象を巻き起こしたエネルギーフィールド。 バシュタール現象、またの名をエネルギー中和現象とも呼ばれるその現象。 その名の示すとおり、あらゆるエネルギーを中和し、その機能を停止させる現象である。 それはバシュタールの惨劇と呼ばれる大災害を巻き起こしたそれである。 バシュタールの惨劇。 それはたった2%の不完全が巻き起こした悲劇だった。 98%の成功に、功を焦った研究者たちが2%の未知を無視しシズマドライブの実験を強行した。 結果システムは暴走。 実験炉とともにバシュタール公国は消滅。 副産物として生まれたエネルギーフィールドは世界全体を包み、地球上のあらゆるライフラインを静止させた。 その結果、人類の三分の二を死滅へと追いやる未曾有の惨劇へと発展した。 そして、その失敗を糧としてシズマ・ド・モンタルバンIII世博士を中心とした研究チームはシズマドライブを完成させ。 フランケン・フォン・フォーグラー博士は十年前の歳月をかけて、シズマドライブのみを静止させる『アンチ・シズマドライブ』を完成させたのだ。 あの惨劇を巻き起こした原因は不完全な未知。 小早川ゆたかがシズマ・ドライブを使用しフォーグラーを起動させたおり、バシュタールの惨劇が起こらなかった原因は単純だ。 完成品であるシズマ・ドライブは完璧すぎた。 リサイクルの際の不具合があるが機能事態は非の打ち所のない、まさしく理想のエネルギー資源である。 それは『アンチ・シズマドライブ』も同じこと。 十年という歳月、稀代の天才フランケン・フォン・フォーグラー博士の執念の一作だ、完璧でないはずがない。 ならば、今、大怪球フォーグラーを動かしエネルギーフィルドを生み出している『2/3アンチ・シズマ管』ではどうか。 単純な量を省みればその不完全さは2%どころの騒ぎではない。 材料自体は完璧なアンチシズマであるが、その総量を失い不完全である。 それは完全であり完全でない、アンチ・シズマ管でありアンチ・シズマ管でない曖昧なシズマ。 故に、あの惨劇が繰り返される。 今度は事故ではなく故意を持って。 悲劇ではなく希望を目指して。 押し広がったエネルギーフィールドは天にまで至った。 天上の星々は所詮偽りの天象儀。 天の星々もまた、その機能を止められ光を落とし闇に融けた。 世界を照らし続けた太陽も同じく機能を停止させ世には闇の帳が落ちる。 そして、遂には大怪球を中心とした円はこの小さな箱庭全てを包み。 あらゆるエネルギー現象がその活動を停止し、世界が静止する。 それは螺旋王の用意した舞台装置とて例外ではない。 箱庭に参加者を閉じ込めていた『転移結界』がエネルギーフィールドに触れ消失する。 全てが消える。 時すら止まったような静寂と、塗りつぶしたような底の見えない漆黒の闇がただ天に広がっていた。 夜天には星の煌き一つない。 天に残ったのは闇を穿つような真円が一つ。 煌々と輝く青白い月だけが変わらず天に在り続けていた。 ◇ 「――――――よい開幕だ、王ドロボウ」 終演の開幕を告げる声が響く。 天を奔るウィングロードから英雄王が降り立ったのは、月を真上に構える会場の中心。 遠目に巻き起こる爆発とその結末を見届け何を思うのか。 これまで脱出に向け積極的に動くことをよしとしなかった英雄王が始動する。 「ひとたびの興としては悪くない舞台であった。 せめてもの手向けだ、この我が手ずから相応しい幕を引こう」 闇を斬るように振るわれた剣の軌跡に赤い残光が浮かんだ。 始まりの英雄が終わりを告げるように乖離剣を振りかざす。 英雄王はこの地において衝撃のアルベルトによる敗北を経て油断を封印し、そして今しがた王ドロボウによって慢心を盗まれた。 油断も慢心もない、まさしく今ここに在るのは天下泰平を成し遂げ、この世全てをその手に治めた大英雄に他ならない。 王の奢りを脱ぎ捨てたその心情を表すように金色の鎧を模したバリアジャケットが形状を変える。 全身を包んでいた黄金の鎧は下半身を残し弾けとび、黄金率の均整を整えた完璧なる肉体が露になった。 露になった上半身に刻まれる呪詛のような赤い文様は、全てに破滅を齎す不吉を思わせる。 光なき世界においてなお恒星の如く眩い黄金の魂。 天に光なき今、輝きは地に。 世界の中心に、暗黒を根絶する黄金の殲滅者が降臨する。 「さあ、出番だエア。貴様に相応しい舞台は整った――――!」 主の命に従い、乖離剣が軋みをあげた。 乖離剣に嘗てないほどの膨大な魔力が注ぎ込まれる。 ここにきて初めて見せる英雄王の全力全開。 それに倣い、地殻変動に等しい重さとパワーを軋ませながら互い違いの方向へ三つの円柱が廻る。 胎動を始めた乖離剣を中心に大気が乱れ集い、犇めき合う風たちが地を引き裂く雷鳴のような嘶きを響かせた。 吹き荒れる暴風。 その剣は風を払うのではなく、風を巻き込むことで暴風を創り出す。 乖離剣は辺りの空間ごと大気を巻き込みながら、この地に漂う無念や絶望を、あるいは希望や祈りすらも次々と己が糧としてに飲み込んでゆく。 石臼のような円柱の隙間から滾りあふれる赤い魔力が、巻き起こる暴風に乗って会場全体へと吹き荒れた。 世界を支配していた闇を祓うかのように赤い魔力の渦が世界を染め上げる。 英雄王の放つ重圧に耐え切れず、踏みしめる大地にヒビが入りその周辺が陥没した。 次いで、そのあまりに激しすぎる魔力の流動に耐え切れないのか、箱庭全体がカタカタと震えた。 まるでこれから巻き起こる何かに脅えるように。 地は砕かれ、水は干上がり、風が震える。 大気が大地が大空が、世界がそのものがその存在に畏怖し慄き震え上がる。 螺旋王の作り上げた偽りの世界を殲滅するべく、英雄王の前に圧倒的な真実が渦となり荒れ狂う。 その渦の中心は無風でなく紛れもない暴風。 狂ったように吹き荒れる暴風の中にありながら、君臨する王はなおも不動。 振りかざす乖離剣の躍動は止まる気配を見せない。 それどころか一回転ごとにさらに早く、より速く、なお奔く狂おしいまでにその回転を加速してゆく。 猛り狂う暴風はあらゆるものを吹き飛ばしながら会場の端々まで吹き荒れ。 鬩ぎ合い蠢く空気の渦は、擬似的な空間断層となり世界より隔離された異界を創り上げた。 吹き荒れる疾風は擦り切れるように摩擦を生み、大気が炎上し燃え上がる。 業火に揺れるその世界は灼熱の地獄のよう。 世界に満ちたマナはその剣に供物として捧げられ、大気が枯れ果て凍りつく。 絶対零度の風が吹き荒れるその世界は極寒の地獄のよう。 灼熱と極寒が入り混じるそれは、あらゆる生命活動を許さぬこの惑星原始の姿そのもの。 生命の原初にして死の原点。 地獄と謳われたこの舞台を嘲笑うように、乖離剣は本物の地獄を創り上げる――――――! 「さぁ王ドロボウよ、望みとあらば見せてやろう。 我としても、このような気紛れは一生に一度あるかないかなのだ、出し惜しみはせぬ。 英雄王の真の力を、特とその目に焼き付けるがよい――――!」 地獄の中心で不敵に笑いながら英雄王は宣言する。 その背後の空間が陽炎のように歪む。 同時に生まれた歪みは三点。 各々から取り出されたのは英雄王の輝きを反射する鏡の破片。 それは、使用者の魔力を爆発的に高める魔界の禁断具、王ドロボウより譲り受けた魔鏡の欠片。 人間界に渡るおり、三つに分かれた欠片が今、王の下一同に集い、原型を取り戻した魔鏡が怪しい光を放つ。 魔鏡より溢れ出した膨大な魔力が、ギルガメッシュに注ぎ込まれる。 その魔力は英雄王を触媒に直列で乖離剣へ流れ、限界と思われた乖離剣の回転が爆発的に加速する。 魔鏡によるバックアップを受け、その威力は更に跳ね上がる。 「――――――終わりだ」 終わりを告げる英雄王の声。 乖離剣の躍動はもはや目視不可能な域にまで達していた。 英雄王の執る乖離剣には世界そのものを破壊するほどのエネルギーが内包されている。 一瞬でも油断すれば制御を失い、ともすれば自らを滅ぼしかねないだろう。 なれど、今の英雄王に油断はない。 慢心もなく、全力を持って乖離剣を従える。 これ程の破壊を従えられる者など、このギルガメッシュを置いて他にない。 慢心ではなく、絶対の自信と傲慢さを持って、ギルガメッシュは乖離剣の狙いを天空に定めた。 狙うは遥か高みに鎮座する、あの月だ。 あれこそがこの世界を維持する基点。 あれを潰せばこの世界は崩壊する。 さあ刮目せよ。 見るがいい三千世界より集められし勇者たちよ。 見るがいい儚くもこの地に散り行った兵たちよ。 見るがいいこの舞台を創造せし螺旋王よ。 見るがいいこの舞台を繰る介入者よ。 見るがいい天上の傍観者よ。 そして知れ。 人類最古の英雄王、その真の力を。 「――――――天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)――――――」 ◇ 宇宙の法則すら軋ませるほどの膨大な魔力の束が解き放たれた。 空間を断絶しながら、渦を巻く彗星は昇るように空へ。 誰もがその軌跡を追うように天を見上げ、天地開闢の瞬きを垣間見た。 天が絶叫し、地が震撼する。 その剣が切り裂くのは形ある地ではなく、まして形ない天でもない。 その一撃が切り裂くのはこの世界そのものだ。 古代メソポタミア神話において、混沌であった世界を天と地に分けた神の業。 世界を切り裂くこの一撃こそが、英雄王を超越者たらしめる『対界宝具』の正体である。 世界を覆う障害を裁ち落とすべく、破壊の渦は舞い上がる。 待ち構えるはこの世界を構築する第二の結界。 外界からの断絶、参加者の能力制限を一手に引き受け、この世界の守護する『防護結界』である。 不可視なれど、確かにそこに存在するそれはバシュタール現象の影響下に在らず、英雄王の行く手に障害として立ち塞がっていた。 虚空にて、進化を是とする最新の王が創りし守護と原典を是とする最古の王が創りし破壊が衝突する。 否。それは衝突などという生易しいものではなかった。 触れ合うたびに互いを否定しあう存在の拒絶。 空間が歪み、虚空がひび割れ、空が墜ちる。 世界が崩壊するその様は、まさしく神話に謳われる天地創造の再現だった。 その一刀を揮うより前の有象無象は、何ら意味を成さぬ混沌にすぎず。 その一刀が揮われた後に、新しい理が天と海と大地を分かつ。 その一刀たるや、もはや命中の是非や威力の可否を語るのも馬鹿らしい。 その一刀は形の有無すら問わず森羅万象の存在事項を否定し尽くし、触れる万物を虚無の彼方へと呑み込んでゆく。 そのような規格外を前に、いかな常識が意味を成そうか。 会場を覆い包む『防護結界』が守護という役目を果たすこともなく砕け散った。 舞い散る破片は地に降り注ぐことすら許されず、例外なく虚無の果てへと吹き飛ばされ消えてゆく。 瞬間、この世界を包む周囲の景色が一変した。 仮初の空は掻き消え『防護結界』によって覆い隠されていた『世界の核』が露となる。 現れたのはこの薄い黄金にも似た緋色のドリル。 これこそが世界を構築する円錐の檻である。 何もかも一変した世界で唯一変わらず残ったのは天の中心、ドリルの先端に鎮座する満月のみ。 空を越えて宙へ。 その名残すら消し去るべく、不変を許さぬ破壊と創造の渦が円錐の頂点目掛け突き進む。 その勢いは防護結界を破ってなお衰えを知らない。 瞬きの間にエヌマ・エリシュはこの世界の心臓部である月に達した。 ぶつかり合う二つの究極。 星々が爆発したかのような火花が散る。 闇夜は一転して白夜へ。 極光が世界を包んだ。 光彩陸離に瞬く光はさながら世界を照らす開闢の星のよう。 世界を焼き尽くすような閃光の中、ひび割れ墜ちる、世界崩壊の音が響く。 暴風と極光が徐々にその色味を薄めてゆき、全てを無に帰す破滅が締めくくられる。 全てを覆い潰す白光の中心で、金色の王と赤い剣だけがその存在を示すように燦然と光を放ってた。 ◇ その違和感に初めに気づいたのは、やはり英雄王ギルガメッシュだった。 世界は一面の白。 自らの掌すら確認できないほど、視界は光に潰され何も見えない。 それはいかに英雄王とて同じこと。 何も見えず、聞こえず。 こんな世界の中にあっては、何が起きようとも認識することは不可能だ。 だから、おかしい。 何も起きないのがおかしいのだ。 ギルガメッシュの読みでは、月を破壊すればこの世界は崩れ、中にいた者たちは『外』に放り出されるはずである。 だというのに、踏みしめる大地は未だ健在。崩壊が始まる気配は感じられない。 それが指し示すことはつまり、 僅かに光晴れる空。 英雄王がいち早く天を見上げた。 今だ残る光の残滓に真紅の瞳を細めながらも、朝靄の様な光の晴れた空の先に英雄王は見た。 ――――そこには月が出ていた。 世界を包む結界の頂点からは、イカズチのような亀裂が奔っていた。 その周囲はおよそ無事な場所など存在しないと思える程の損傷と被害が見て取れる。 だが、未だ健在であるのは疑いようもなく。 確固たる形状を保ち、その役割を全うしていることに間違いはない。 会場に張り巡らされた三重の結界。 当然ながらその役割はそれぞれ異なるものである。 『転移結界』が内部の参加者の脱出、反旗を防ぐためのものだとするならば。 『防護結界』はこの舞台の運用、保全を第一とした文字通り、この実験進行自体の防護を行うための結界である。 それに対し『世界の核』が担った役割は、この世界の形成。のみならず外敵に備えた結界としての役割も担っていた。 外敵とは言うまでもなくアンチ=スパイラルのことである。 もちろんアンチ=スパイラルを完全に封じ込めることができる結界など、いかにロージェノムとて用意することは不可能だろう。 螺旋王が外壁である『世界の核』へ求めたオーダーは、アンチ=スパイラルの攻撃に対しても実験データを引継ぎ脱出することができる一定時間を稼げる程度の強度である。 超一流の螺旋の戦士であるロージェノムが、その螺旋力の殆どを使い創造した、螺旋王そのものといっても過言ではないこの世界。 それを、一撃のもと、崩壊寸前まで追い込んだその破壊力は十分に驚愕に値するものだろう。 だが、所詮そこまでだ。 『世界の核』を打ち破ることは叶わなかった。 あるいはギルガメッシュに衝撃のアルベルト戦のダメージがなければ。 あるいはこれまで放った天地乖離す開闢の星分の魔力が失われていなければ。 あるいは、この結界すらも打ち抜けたかもしれない。 それもこれも、所詮全ては可能性の話に過ぎない。 月はなおも煌々と輝いている。 残ったのは英雄王の全力が敗れたという結果だけだ。 だがしかし、その周囲の損傷は誰の目にも明らか。 いかに無事とはいえ、首の皮一枚、風前の灯ともいえる。 ならば、もう一撃『天地乖離す開闢の星』を打ち込めば事足りる。 そう結論付けた英雄王は、激昂した頭のままトドメを刺すべく右腕に乖離剣を、左手に魔鏡を掲げた。 もう一度その魔力を引きずり出さんと魔境に力を込める英雄王。 だが、いかに魔界の宝具とて、常軌を超える英雄王の酷使に耐え切れなかったのか。 掲げた魔鏡が砕け散り、もはや修復不可能な幾千もの欠片と化した。 「ちっ」 一つ舌を打ち、早々に魔鏡に見切りをつけ手に残った破片を振り払う。 そして、自らの魔力を直接乖離剣に注ぎ込んだ、その瞬間、英雄王の身に纏っていた衣服が弾け飛び、裸体が衆愚の目に晒された。 「む。どうした具足」 『無理ですKing! バリアジャケットを構築する魔力が残っていません』 足元からの言葉に英雄王は忌々し気に舌を打つと、エアに篭めた魔力を引き戻し黄金の鎧を再築する。 マッハキャリバーの言う通り、ギルガメッシュは肉体的にも魔力的にも限界であった。 いかにギルガメッシュが受肉しているとはいえ魔力はサーヴァントの生命線である。 魔力は現界に必要不可欠な要素であり、それを完全に枯渇させてしまえば消滅するほか道はない。 最も、そのような弱みを見せるなど英雄王としての自尊心が許さないのだろう。 魔力を枯渇寸前まで失いながらそれを微塵も表に出さず平然としている。 おそらくは直接魔力を頂戴しているマッハキャリバーでなければ、英雄王の限界に気づくことはできなかったであろう。 だがその実、ギルガメッシュには門一つ開く余力すらもありはしない、精々バリアジャケットを維持するのが限界である。 だが、それでも、あと一手が必要だった。 ギルガメッシュの一撃によって、もはや結界は風前の灯。 あと一手差し込めば、必ずこの会場は崩壊するだろう。 英雄王が限界を迎えた今、それを用意する役割を果たすのは生き残った他の参加者以外に存在しない。 だが、その一手があまりにも遠いのだ。 風前の灯とはいえ、その灯はあまりにも強大である。 生半可な風ではビクともしまい。 ギルガメッシュの放った一撃は凄まじ過ぎた。 その光景を見守っていた全てのものに、その事実はいやがうえにも理解させられた。 だからこそ、その一撃が通じなかった絶望もそれに比例して深い。 先の一撃と同等か以上、この火を吹き消すには、最低でも生前明智健吾がそれであると考察した最強戦力が必要となるだろう。 だが、ボルテッカを放つ宇宙の騎士は志半ばに倒れ。 エンジェルアームを放つヴァッシュ・ザ・スタンピードも無念のまま散った。 そしてなにより、最大の問題として時間制限がある。 それは螺旋王の提示した会場崩壊の時間でも、グアームの言うアンチ=スパイラル到達の時間でもない。 最大の問題は、果たしてバシュタール現象がいつまで維持されるのかという一点である。 バシュタール現象を引き起こせる、フォーグラーが完全に機能を停止し消滅した。 今張られているエネルギーフィールドが消えればそれで終わり。同じ策は実行不可能である。 転移結界が復旧してしまえば、それを突破する術はもはや存在しない。 バシュタールの惨劇に習えば七日間という余裕があろうがこれは参考にはならない。 そもそも、エネルギーフィールドを維持するフォーグラーが消滅している時点でいつ消えてもおかしくはないのだ。 つまり外殻を突破するには今しかない。 制限時間が限られている以上、ギルガメッシュの魔力回復を待つことも不可能だ。 世界を照らしていた光が完全に消え再び世界に闇が戻る。 万策は尽きた。 刻一刻と時が過ぎ去る。 今にも落ちてきそうな空。 その中心に、重く圧し掛かる絶望を照らすように、月が出ていた。 時系列順に読む Back HAPPY END(13) Next HAPPY END(15) 投下順に読む Back HAPPY END(13) Next HAPPY END(15) 285 HAPPY END(13) ヴィラル 285 HAPPY END(15) 285 HAPPY END(13) シャマル 285 HAPPY END(15) 285 HAPPY END(13) スカー(傷の男) 285 HAPPY END(15) 285 HAPPY END(13) ガッシュ・ベル 285 HAPPY END(15) 285 HAPPY END(13) 菫川ねねね 285 HAPPY END(15) 285 HAPPY END(13) スパイク・スピーゲル 285 HAPPY END(15) 285 HAPPY END(13) 鴇羽舞衣 285 HAPPY END(15) 285 HAPPY END(13) 小早川ゆたか 285 HAPPY END(15) 285 HAPPY END(13) ジン 285 HAPPY END(15) 285 HAPPY END(13) ギルガメッシュ 285 HAPPY END(15) 285 HAPPY END(13) カミナ 285 HAPPY END(15) 285 HAPPY END(13) ドモン・カッシュ 285 HAPPY END(15) 285 HAPPY END(13) 東方不敗 285 HAPPY END(15) 285 HAPPY END(13) ニコラス・D・ウルフウッド 285 HAPPY END(15) 285 HAPPY END(13) ルルーシュ・ランペルージ 285 HAPPY END(15) 285 HAPPY END(13) チミルフ 285 HAPPY END(15) 285 HAPPY END(13) 不動のグアーム 285 HAPPY END(15) 285 HAPPY END(13) 流麗のアディーネ 285 HAPPY END(15) 285 HAPPY END(13) 神速のシトマンドラ 285 HAPPY END(15)